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とても良い

記憶とメモリーチップ。
 アトムは少年の如きロボットだ。同じ最高峰の人工知能を与えられた仲間が同胞を数多くした戦いで、平和の使者として、清いロール(役割)を与えられた(しかしその少年の如き容姿のためにサーカスに売られた過去を持っている)。刑事ゲジヒトが見たアトムは、人間と誤認識しそうになるほどに少年だった。カタツムリを夢中で眺め、甘い甘いパフェを無我夢中で頬張り、ウインドウの外を通り過ぎるおもちゃに全身全霊で目移りする。
 アトムはゲジヒトのメモリーチップ(記録)に涙する。おそらくは、ゲジヒトの目をそらしている悪夢の記録を見て(フロイトの"夢は現実に起きたことの表出であり"〜を引いたのは1話だったか。なお私の記憶では思い出せなかったので検索の力を借りた。フロイトの、も思い出せなかったのでこの筐体がなければ私は永遠に辿り着けなかっただろう。1話の人間の巨匠の如くに)。同じ記録を見ているはずなのに、それによって表出するものはゲジヒトとアトムで異なっている。
 アトムが今回の殺人現場で見出すものは、後から振り返って思い出すと、とても人間的な推理だった。被害者が、そして犯人が、どのような思考をして行動を起こし、やがて凶行が起こったのか。痕跡から浮かび上がらせていく。思い出す前の初見視聴時、ただ見ているときは、現場を忠実に保存し、完全に再現できるようにするロボット的な近未来捜査の現場保存技術の面白さに存分に浸って楽しんでいた。
 リングで戦い続けることを選んだ2人のロボットがいた。1人は妻と(いつか自分が壊れていなくなっても妻が寂しくないようにと)多くの養子をとり人間らしく生きることを選び、もう1人はどこまでもロボットとして(そのストイックさがとても人間らしいと思った)独りファイトの技術を極めることを選んだ。その対比にも興味を引かれたのだが、やはり前者の最後の時、走馬灯に思い起こすものが貴重な犯人の手がかりではなく、最も大切な妻と子どもたちのことだったのが、そして違うことを考えよう考えようとしても繰り返し思い出してしまって止められないことが、それが愛情によるものだと分析できないロボットらしさが、とても切なく温かく…胸いっぱいでお腹が満たされる感覚になった。そして思い出したのはアトムがゲジヒトのメモリーチップを欲した時で、その時ゲジヒトが考えたのはアトムの最高峰の人工知能の自分以上の優秀さによって気づける情報の存在だったが、そこで現れたのは経験の積み重ねの違いによる異なる現実だったと思った。
 以上のようなことから最後にメモリーチップが残されていたのも、何重の意味でも、それはとても言葉にしきれないが、そのようにあるのがふさわしいと思える図だった。
 記録(メモリーチップ)と記憶の違いについて、何度も繰り返すこと、その順番、意識の比重、と考えていてアトムが別れ際にゲジ人にかけた言葉(奥さんと一緒ならきっと大丈夫…うろ覚え)を思い出した、つまり他者との関わり、そういったことによって記憶となっていくのだろうと今は思う。
 書きながら考えていたことで、アトムが少年のように行動して少年の心を得たように、戦場で殺意を学習したロボットたちがそれぞれの方法で一生をかけて向き合ったように、記憶を作る中で(1話から人間の真似をすることに意味があるという話、うろ覚えだが、話があったと思い出した)、…「憎しみ」も…言葉が見つからなくなったが、きっとそれが全てではないと思った。



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