全編に織り込まれた多数のトリビアが売りだが、いろいろと問題のある作品。
序盤で登場した人気のあるキャラクターが、やがて登場しなくなり
記憶に残らないようなモブ級のキャラクターで埋め尽くされていくことには
作り手による主人公への肩入れを感じる。
ストーリー面は作者のイデオロギーが色濃く反映されており
世界のあり方をめぐる論議において誘導の意図が見え隠れする。
一例を挙げると、主人公・千空が「科学」の価値として掲げる事物は、
その副産物である「技術」である。技術と科学は同一のものではない。
過去に人類が編み出した技術には、経験によって発見され定着し
科学の知識を必要としないものも存在する。
ゆえに「技術」は「科学」と同一のものとして扱えないのである。
民衆がもっぱら必要とするのは「技術」のほうであり
科学そのものではないのだ。
科学由来の事物は素晴らしいものばかりではない。
人類が歴史において生み出してきたものについて本気で探究するなら
拷問用具や処刑道具、兵器なども言及を迫られることになるはずだ。
そうなると物語の聞き手にも
科学の価値に疑義を抱く者が現れるかもしれない。
一見、過激にみえる獅子王側のような思想を持つグループが
実社会に存在するのは、このような背景があるからだ。
それでも、主人公側は現実から目を背けず信念を貫くことが
できるだろうか。壮大なテーマを扱うからには、
作り手はそうした責任感を忘れないでほしい。
本作は単なる娯楽作で収まる企画ではないはずだ。