Annictサポーターになると広告を非表示にできます。
全体
とても良い
映像
とても良い
キャラクター
良い
ストーリー
良い
音楽
良い

奇妙な偶然が重なって、個人的に変な刺さり方をした。語ろうとすると、どうしても半分くらいは自分語りになってしまうので適宜スルーしてください。

これはとても個人的な話になるけれど、自分はこの1ヶ月間ずっと、古い携帯に届いた着信のことを考え続けていた。ずっと捨てられずにいる携帯に届いた着信のことを。
(注:自分の携帯の話ではないので心配しなくて大丈夫です!)
その呪縛をようやく手放したタイミングで観たのがこの映画だった。こんな話だとは知らなかったから本当にびっくりしたし、悔しかったし、また嬉しかった。このタイミングで本作を観れたことに何か因縁めいたものを感じている。
あんずの言う「供養」という言葉がすごくしっくり来た。きっとこの映画は自分にとっての供養だ。その意味でも忘れられない作品となった。

珍しいことに、今回感情移入したのはあんずだ。自分は別に有名になりたいとはまるで思ってないし漫画家になる夢があるわけでもまったくなくて、もちろんなんの才能もなく、あんずとは全然共通点がないのだけど、この世界に何か生きた証を刻みたいという彼女の思いがなぜかすっと腑に落ちた。そういう欲望が自分は存外あるらしいということにも驚かされた。それもこの1ヶ月考えていた件と無縁ではないのだろうと思う。だから、もし1ヶ月前にこれを観ていたら全然違う感想を持っただろう。

自分はSFというより怪異とか都市伝説的なものとして受け取った。でも二人の共同戦線がきわめて科学的な態度でトンネルを調査していくのは面白かった。確かに『ほしのこえ』とか『トップをねらえ!』とか『インターステラー』とか、ウラシマ効果の名作がたくさん思い浮かぶけど、自分は他の部分がぶっ刺さったせいで、あくまで自分にとってはウラシマ効果はあくまでスパイスという感じになってしまった。よく引き合いに出される『HELLO WORLD』っぽさは個人的にはあまり感じなかったかな。もっと情念的な物語。この陰鬱さはむしろ『星を追う子ども』に近いかもしれない。ウラシマトンネルの考察はしたら野暮だなと思うのでしない。とかいいつつ水陸両用車で爆走してすごい速さでトンネル往復したり、超長いマジックハンド(光速とハサミのパラドックス的な)で奥の物を取ったら一件落着じゃねとかいう大喜利的ネタはつい浮かんでしまった。すいません。

古い日本映画とか文学的な雰囲気をもつとても良い作品だと思う。ヒロインの方が生を志向していて現実的な夢を持っていて、主人公の方が禁忌の呪縛に囚われているというのも良かった。そして映像と環境音の力が半端なかった。山あいのうらぶれた漁業の町、酒とぶちまけられた味噌汁と父親の女の香水の匂い、すべてを遮断するような篠突く雨音。この家から早く逃げ出したいと言う情念と、この世界に何かを刻みつけたいという情念。さすがCLAPだ。ポンポさんのアメリカ特有のパキッとした空気感と対照的な、匂い立つような情景描写だった。入場特典小説は(後日談ということもあるけど)けっこう雰囲気が違って少し驚いた。いい意味で普通にいいラノベというか、映画鑑賞前に思い描いていたイメージに近かった。だとするとあれは映画特有のものなのか。

駅のモデルは下灘駅かな。

追記:主人公とヒロインの声の演技がとても良かった。こういう作品はアニメの声優さんじゃないほうが合うと個人的には思う。



Loading...