僕が新海誠を知ったのは「ほしのこえ」だが、その時はあまり新海作品に興味がわかず、数年前に「雲のむこう、約束の場所」を見たのが最後だ。個人的には唯一見たことのある2作品と他作品の風評から、新海誠は「『喪失』を描く人」というイメージを持っていたし、そのイメージも間違いとは言えないだろう。
しかし、本作を見てそのイメージは大きく裏切られた。思い返すと、この「新海誠の『喪失を描く人』というイメージからの脱却」を含めて、本作は上映前に抱いていたイメージを「(いい意味で)裏切る」映画だったな、と思う。
冒頭から「入れ替わり系」の物語の約束を網羅しつつ、主要人物とその周辺の事情を説明していく構成は手馴れているな、と感じさせる。新海誠特有の圧倒的なビジュアルの緻密さ、幻想感も相まって、序盤から観客を作品に引き込むには十分すぎるパワーがある。僕のような新海誠ビギナー(笑)も、あっという間に虜になった。
序盤~中盤だけでも素晴らしいのだが、二人の入れ替わりがある日を境に断絶したことで、瀧が三葉と現実世界で出会おうと飛騨の地に向かう中盤以降が物語の本番。
そこに、まず最初の「爆弾」があった。単なる入れ替わりものでなく一捻りあるだろう、と思ってはいたが、予想以上の展開が待ち受けていた。ネタバレ防止のために大筋は伏せるが、多くの人はここでさらにグイッと物語に引き込まれることは間違いない。
そして中盤の急展開から瀧と三葉が再び出会うために、2人を引き裂くだけでなく多くの人の命を奪う「悲劇」を食い止めるために奔走する終盤を経て、RADWIMPSの劇伴とともに盛り上がるクライマックスを終えると、新海誠らしい、「喪失」の余韻が待っている。観客にとってはもどかしい時だ。あとすこし手を伸ばせばハッピーエンドなのに、瀧と三葉はすれ違う。
そしてここに第2の爆弾がある。ここで、新海誠は「喪失」ではなく、ハッピーエンドへと舵を切るのだ。いままでの新海作品にはない、誰もが安心できるハッピーエンドを締めくくりに持ってくるのだ。
展開の意外さにも「やられた!」と感じたが、個人的にはこの終幕を見て「新海誠は『ヲタク向け』という狭い世界から脱した」という思いを強く抱いた。新海誠は「雲のむこう~」「秒速5センチメートル」で有名になったとはいえ、それは我々ヲタク界隈の中での話だ。それが、この「君の名は」を経て、非ヲタの、普段ジブリと「ワン◯ース」以外のアニメ映画には縁のなさそうな層の人をもうならせる人になった。
新海誠イズムを失わぬまま、もっと広い世界、広い客層に受ける作品を生み出した。そこには「広い客層に見てもらう為に、ヲタク的こだわりを捨てた『妥協』」ではなく、確かに「成長」が感じられた。
ヲタクから非ヲタまでを広く魅了するのも納得の作品で、間違いなく良作と言い切れる。新海誠の新境地を見た。
万人にオススメできる、「SF(すこし、ふしぎ)」なラブストーリー。オススメ。