アニメ『氷菓』の中でも、「愚者のエンドロール」編はとにかく観終わったあとの余韻が苦しくて、でも最高に面白いです。
一見すると「文化祭の未完成映画の犯人を当てるミステリー」なのですが、見終わってみると全然違う。これは、「自分の才能をちょっと信じちゃった男の子が、大人っぽい先輩に手のひらで転がされる、めちゃくちゃリアルで残酷な青春の挫折ドラマ」です。
普段は「やらなくてもいいことなら、やらない」って言ってる省エネな奉太郎が、あの入須先輩(女帝)に「君は特別だ」「才能がある」っておだてられたとき、ちょっと浮かれて乗っちゃう感じ。あの心理描写がすごくリアルで刺さりました。
誰だって綺麗でクールな先輩に「君には才能がある」なんて言われたら、無意識に「俺って実はすごいのかも」って自尊心をくすぐられます。
でも、これが大きな罠だったのが恐ろしいところです。
入須先輩が欲しかったのは「事件の真実」じゃなくて、「映画を完成させるための都合のいい脚本」だけ。奉太郎はカッコいい名探偵として事件を解決したつもりだったのに、実際はただ「使い勝手のいい代役脚本家」として利用されていただけでした。
奉太郎以外の古典部メンバーが「これ本郷さんのやりたかったことと違くない?」って違和感に気づけたのは、入須先輩に直接おだてられてなかったからなんですよね。奉太郎だけが「俺の出した答えが絶対に正しい」と思い込まされていて、周りの違和感をスルーしちゃってたのが本当に切ないです。
一番鳥肌が立ったのは、真相に気づいた奉太郎が入須先輩を問い詰めるラストのシーンです。
「才能を自覚しろって言ったあの言葉も嘘だったんですか!」って怒る奉太郎に対して、入須先輩は「本気で言ったわけじゃない。嘘と思うかは君の自由よ」って、悪びれもせずにサラッと言い放つんですよね。
依頼を申し込んだときの入須先輩は、奉太郎をその気にさせるために「実は私も昔、補欠で苦労して…」みたいな嘘まで吐いてたわけです。それすらも全部演技だったと分かったとき、奉太郎が言った「それを聞いて、安心しました」という一言。
これ、最初観たときは「なんで安心したの?」って不思議だったんですが、意味が分かるとめちゃくちゃ深いです。
もしここで入須先輩が「ごめんね、実は申し訳ないと思ってて…」なんて申し訳なさそうに反省したフリをしてたら、奉太郎も怒りのやり場に困っていたはず。でも、彼女は最後まで反省ゼロで、どこまでも冷酷な「女帝」のまま逃げ切ろうとした。
だからこそ奉太郎は、「ふん、やっぱりアンタは最後まで冷酷でずるい人なんだな。変に優しいフリをされなくてよかった。これで心置きなく、あなたを嫌いになれる」っていう、あきれと強烈な皮肉を込めて「安心した」って言ったんですよね。この静かなバチバチ感がたまりません。
観終わったあとに「うわぁ…でもすごいアニメだ…」とため息が出てしまう、文句なしの名エピソードでした。