ローダンセ教官、歩んできた人生に自信と誇りを持ち毅然と立つ大人。この人の存在が大きく作品の雰囲気を変えてくれたように思いました。
それまでの手紙とも言えない手紙をヴァイオレットは今ひとつ理解できず自分は悪くないとどこかで思っていたのかもしれません。
しかし彼女の長所を十分認めた上でのローダンセのキッパリとした否定で、初めて心から手紙とは何なのかと考え始めたのではないでしょうか。
でもここでもローダンセは彼女に答えを与えることはせずあくまで自立を促します。おそらく自身も葛藤しながら多くの実務をこなし、その上で多くの生徒を導いてきた経験がありありと窺える見事な態度だと思いました。
ヴァイオレットはルクリアと正対し彼女の心を見ます。嗚咽する彼女を前にヴァイオレットに僅かなハイライトが当たります。戦場を生き抜いてきた彼女の勘が(これが心なのかもしれない)と絶好の機を悟らせてくれたのかもしれません。
横たわる兄に手紙を渡すのに2度の言い直しを経て「…手紙です」と言ったときの態度はこれまでの彼女とは全く違います。
必死に思い悩んで掴みかけたそれが確信の持てるものではない、それでも懸命に言い切る姿は儚げで不安そうで、別人のようでした。
暗闇の中2人を照らす小さな灯し火のように、兄へと伝わったルクリアの気持ちがそれぞれの希望となり温もりとなったように思いました。戦いで傷ついた2人の心をルクリアの優しい心がそっと掬い上げてくれたのですね。
再びローダンセの前に立ったヴァイオレット。ブローチをつけてもらってもまだ戸惑っているようでここに至ってもあれが「手紙」だとは確信を持てていなかったのでしょう。
そして厳しいローダンセも本当は全員を卒業させたかった筈で、教え子の成長を前に見せる僅かな笑みが実に素敵でした。
ルクリアが涙をこぼすシーンで彼女に寄り添えなかったりするのは友人としては褒められたものではないのかもしれません。でも不器用な態度が兄妹の心を繋げたように、それこそがヴァイオレットの持ち味なのかもしれません。僕はその方が素敵だな、と思いました。
ルクリアが初めて時計塔に登ったとき、不意の風に攫われた帽子はもう戻りませんが、今の彼女はそれを守る智恵と力があります。お兄さんと2人手を離さずに生きて行ってほしいと心から思える美しいラストシーンでした。