定命と永遠の命。静かに語られてきたテーマが一気に溢れ出した回でした。それぞれの狭間で生きてきたエリアスにとってはここが正念場。己の問題にすら気付けていなかった彼にとっての大きな成長の時です。
我を失うほど取り乱しているエリアスなのにチセのことを思い懸命に自制する姿がかわいかったです。骨頭なのでどうしてもかっこいいよりかわいいという印象になってしまいますが、全てから距離を置いていた以前の彼からすると大変な変化です。
変わらぬ自分達の世界でそのルールに則って楽しく暮らしたい。そんな妖精達に弾かれたエリアスにとってもやはり時間は永劫で、生まれては消えてゆく人間に執着するなど愚かしい事だったはずです。
しかし思いもよらなかったであろう自身にもあった感情というもの気づかせてくれたチセが離れてゆくことに耐えられない、その為には愚かしくとも己を改める他ないという決断はリャナン・シーも抱えていた葛藤を乗り越えようともがく姿なのだと思います。
そしてその先にいるチセもまた定命と不死の境目で戦っています。エリアスの決断がどのようにそれに関わり答えを導き出すのか、またその結果2人はどんな結末を噛み締めることになるのか、再び共に走り出したその行く末を見守りたいと思います。
2度目のデートはお互い緊張してすれ違いばかりだった前回と違い終始落ち着いたムード。いつの間にやらすっかり秋の空の下、季節の変化が互いを労わるような関係の変化にもリンクしているようで心地よい回でした。
気候のいい時の野外市、僕も好きなので夢中になる正己の気持ちよくわかります。ぎっしりと詰まった宝箱の中のようで集中していないとすぐ見逃してしまうんですよね。でもその結果置き去りで待たされても受け入れるあきらの良さったら…なんていい娘なんだろう。
このあきらという娘は直接的なアプローチは苦手なくせにこういうさらっとしたやり取りが自然で気持ちいいです。常に行間を読む、みたいな関係が心地いいので今のはるかのように言葉が欲しい時にはギクシャクしてしまうのでしょうね。SNSから仕切り直し、いいんじゃないでしょうか。
あきらが道を見失い途方に暮れていた時にそっと寄せられた正己の優しさに救われたように、今度はあきらが正己の心を優しくすくい上げる。間違いなくお互いに特別な関係になった筈ですが、果たしてこれが恋情なのか悩ましいところです。
カルタフィルスから振り下ろされた刃を避けずに真っ向から受け止める道を選んだチセ。これまでも誰かの力をあてにするようなことはしてこなかった彼女ですが、かつての遠慮からではなく静かな闘志を秘めての決断でした。
母、智花は幸せな家庭を築きながらも生まれ持った異能に翻弄され夫・息子・仕事とひとつひとつそのかけらを失ってゆき、最後には最愛の娘の首に手をかけることで何もかもを失って儚くなりました。
娘、チセは母の手にかかりかけ元より殆ど何も無かった人生を投げやりに捨て去るところから始まりました。そこから異能の助けを借り伴侶・家族・友人と手探りながらも引き寄せ傷つきながらもここまで歩んできたのです。
対照的な母娘の人生ですが、それぞれの決断や人生に瑕疵があったようには思えません。ただひとつ言えるとすれば、チセには守るものがなく一度捨てた人生だから全てを投げ打って人に尽くすことができたというところかもしれません。
しかし智花も尋常な生涯を過ごしてきたとも思えずチセの行く先にも破滅が待ち受けているのかもしれません。そう考えると同様に何も持たなかったところから生きてきたエリアスが共に生きてくれることは彼女にとってかけがえのない大切なことなのだと思います。
カルタフィルスをも隣人として受け入れる決断を下したチセに残された使命は1度は離れた生涯の伴侶を取り戻すこと。
一刻も早く呪いとの戦いを生き抜く術を勝ち取り、愛するエリアスのところへ駆けつける時を心待ちに次回を待ちたいところです。
待ち合わせのときかわいい盛りの妹たちに一瞥しただけではるかの手を取ったあきらと心躍らせるはるか。遠のいた距離を縮めたかったのに少しの隙間からできたすれ違いにお互い傷つけ合ってしまいましたね。
一方悩んでいたちひろとの再会を果たした正己。この日はTシャツに羽織ったシャツの裾も出していで立ちから学生風。顔つきまではしゃいでいるのに待ち合わせの瞬間には緊張してしまう、でもそれも一言二言交わすまで…という流れが素晴らしかったです。
ちひろへの思いは嫉妬だけではなかったのですね。遠慮や気遣いを拗らせて疎遠になってしまうのは良くあることですけど、2人とも会いたい気持ちと諦めの気持ちが葛藤してたんだなあと伝わってきて似た体験を持つ多くの人にとって共感の持てる再会シーンだったと思います。
「大人じゃない、同級生だ」とは言い得て妙でした。思わずこのツイートを思い出してしまいましたけど正己の楽しそうな表情や仕草があきらへのささやかな励ましにつながって気持ちのいいラストシーンだったと思います。いろんな意味で中年殺しの作品ですね。
https://twitter.com/kanno_aya/status/969127496082890752?s=21
思春期は大きな変化を伴うものだけど実はほんの少しずつの変化で、でも当人にとってはやはり劇的な変化なのだと思います。
性差の表現が注目される作品なのでしょうが、そんな少しずつの成長とそれに戸惑いながらも歩き続ける子供達、そしてそれぞれの関係の変化に対しての懸命さが僕には愛おしい作品でした。
これは性差の問題に一石を投じる、というような作品には僕には思えずごく当たり前に通り過ぎる成長の一側面として捉えられているのかなと感じました。それよりも揺れ動くそれぞれの心情や葛藤がとてもとても丁寧に描かれていて、美しい画面に彩られる細やかで繊細なストーリーこそが見どころの作品だと思います。
また、全編を通じてのカメラワーク・構図の美しさ、巧みさが飛び抜けていて視覚的に大きく心を揺さぶられるところが実に素晴らしく、淡い水彩様の作画と相まって快感、というよりしっとりと沈み込むような充実感を得られました。
観てよかった、というより何度でも観返したくなる、手元に置いておきたい作品だなという思いです。
結果的にエリアスの元を去ったチセでしたが、「今のあなたのそばには居られない」の言葉の通りこれは決別を意味するものではないのでしょう。
ここまで2人を見つめ続けてきた僕たちにとっては序盤のマシューとミナの関係を思い出さずにはいられないエピソードだったと思います。
カルタフィルスに唆されたとはいえ残虐な行為を行ったマシューに対してチセは責めたり断罪するような事はありませんでした。当人たちが望んだように風と共に円環の外側へ吹き飛ばすのではなく戻すことを選んだのは、その未来を残したかったからなのだと思います。
もはやチセの中で生死の区別は薄く循環する命の輪の中を巡る存在でありたい、孤独に自己完結した母のようではなく、エゴに巻き込み淀みとなったマシューのようでもなく、重荷を受け入れても共に生きて行きたい、手を取り合って並んで歩いて行きたいと多くの出会いの中で望むようになったのだと思います。
チセにもきっとエリアスの気持ちはわかっているのでしょう。でも彼の選ぶ先には望む未来は無く、だから危険だとはわかっていても新しい道を模索しにヨセフの元へと敢えて飛び込んでいったのかな、と想像しています。
私はワガママだな、なんてまた自嘲してるのかもです。
これまでの多くの人との出会いの中でチセが、エリアスが何を思い成長してきたのかその時々を思いながら2人が納得できる道が見つかるといいなと願うばかりです。
吉澤くんがバイトクビになるんじゃないかと心配してましたね。基本的にバイトさんってホイホイ辞めちゃうんですけどたまにこういう子いるんですよ。きっと部活やサークルみたいな感覚でやってるんだと思うんですけど居心地いいんでしょうね。
そんな吉澤くんに恋心のユイちゃんがかわいかった!アニメの感想書いてると、ああこのエピソードはここに繋がるように入ってるんだな、この人はその要員なんだなみたいなこと思いがちなんですけど、ユイちゃんは実に愛らしくて応援したくなっちゃいます。
でもそんなユイちゃんの照れ顔が一度も映らなかったんですね。そこが普段子供っぽい彼女の羞恥が却って強調されているように感じられてとても微笑ましかったです。ちょっと見たかったですけど。
黄色が好きって言ってもらえた時は内心ドキドキだったでしょうね。
さて、あきらの方も教科書に書いた相合傘の落書き、まだ消してなかったんですね。その気持ちわかるなあ。なんだかその気持ちごと消してしまうようでこういうのなかなか消せないものです。でも肝心なところでいつも迂闊なあきら嬢ですね。
正己が悪問と切り捨てた下人の行動は、人生と捉えなおせば答えのない問題でそれは論理的ではなく答えは1つではない。下人の行動を書いた結びを含みのあるものに変えた、というひと言が2人の関係にも含みを持たせているのですね。
勇気もエネルギーもないと自嘲した正己ですけど、きっかけさえあれば誰でも情熱の炎は燃え上がるし勇気も湧いてきます。どちらとも取れる締めはいつものことですけど、タイトルの通りあきらの心が晴れる時には綺麗さっぱり忘れられてしまうかもしれないですからね、正己も悩みどころです。
チセがリードし順調に育まれてきた関係が今回の一件で大きな危機にさらされています。そしてエリアスの少なくともチセに関しての切実さ真摯さが伝わってくる一方で、チセのある意味生命への繋がりの希薄さが見えてひどくつらい回となりました。
とにかくチセは生への執着が薄くそれが周囲とのやりとりの中で齟齬を来しているのが明らかでした。アンジェリカに頬を貼られても今ひとつわかってない、シャノンやリンデル、マリエルの心配も同様で本人は割とさっぱりしているような…。
そんな中エリアスは彼女がその齟齬をわかっていないことを悟っていて尚且つそれを受け入れる、そのさりげないやり取りがあまりに切なく、親愛に溢れていて胸がいっぱいになってしまいました。
それでもチセが自身の生命を引き換えに存在意義を得ようとしているのを目の当たりにすると堪えられず部屋から出ていってしまう、それでも激することはしないところがいかにも彼らしく大変つらいながらもいいシーンだったと思います。
その後の石垣の上でのやりとりでエリアスが言った「ちゃんと僕を連れていって」という一言が、2人の関係性や彼の懸命さ、愛情、寂しさなどいろんなものが込められていて僕の胸には深く深く響きました。
エリアスを始め、残されるもの達への思い遣りが足りていないことが本当の意味ではチセにはわかっていないようです。彼女の命が終わればルツもまた終わってしまうということすらまるで忘れ去られているようで…
僅かに残された希望になりふり構わず縋っていく様子の2人ですが、気の毒なステラやまさかのホコタテ案件と化したドラゴンの呪いとカルタフィルスの呪いなど急激に話が動き出しています。どうかどうか幸せな幕引きになるようにと祈るような思いです。
あきらが正己と対する時はいつも緊張し高揚しているのに対して正己は意外に平静なことが多いです。想いを寄せるのがあきらなので当たり前のような気もしますが、若く美しい女性に寄られれば穏やかではいられないのが普通ですよね。
でもその辺りこそが非常に僕の好きなところで、身体が反応するのが遅くて理性が先に立ってしまう、抑え込められてしまう。それが年齢的にも正己本人の個性としても非常なリアルさを持って迫ってきます。
その意味で画の造形が極めて美麗できめ細かいあきらに対して、心情描写は正己の方に慎重なアプローチがされているように感じていて、ある意味ミステリアスなあきらと圧倒的な現実である正己、この対比が物語のバランスを微妙に保っているようで僕は目が離せずにいます。
そこに今話です。あきらの突き刺さるような想いが正己を覆う分厚い層を貫いてしまったわけです。動き出す身体、差し伸べた手に懸命に理由付けをしながらも抑えられない。その正己の行動にとても感動しました。
ラストシーンのあきらの妄想で2人が裸で抱き合っていたのは、正しく心と心が直接触れ合った事を視覚的に見せてくれているようでとても好きでした。
発作的なものとはいえ互いに触れ、肌の匂いを知り、その温かさを感じてしまった。これはもう元には戻れないはずです。これからどう動いて行くのでしょうね。
前回に増して2人の関係においてのチセの力が増し、もはやエリアスの手の中から出つつあるような印象さえ受ける回でした。
エリアスに対してはっきりと異議を唱え、過失を責めることで有利に交渉を導く。セス・ノエルとのコネで雛の居所を突き止め、またマリエルとの間にエリアスですら知らない関係を築き水面下で道筋をつける。
チセに自主性が備わり能動的に動くことによって逆にエリアスが引っ張られて行くという関係に変化しているようでした。
独立というよりより夫婦としての関係が深まったように思うのですが一方のエリアスの思惑とは外れていっているようでした。これまで1人で生きてきた生涯だったのに依存する相手ができたことで自立することを恐れるようになってしまったようです。
個人的に心配していた小鳥の使いをこっそり埋めてしまった行為は、今となるとチセが離れることを恐れた幼稚な行為に見えてきて「おいエリアスちゃんとしろ」と言いたくなってしまいました。
ドラゴンの雛が暴れ出したことで、それを大切に思い激しく共振するチセと関係ないと切り捨てたいエリアスとの間に溝ができそうでどうなるのでしょう…。
またカルタフィルスが実は救いを求めていることや自分をぼく「たち」と言ったこと、欠損する体や本当の名前は何か、等々気になることはたくさんあります。
エリアスも色んな苦しみを知り思い惑っているようです。
力強い女性陣になんとかしてもらいたいものです。
はるかとあきらの関係にクローズアップしそれぞれの少女の頃からの思いを描いた回でした。空(天候)と高さの演出に面白さがあったように思います。
はるかとの思い出、そして共に過ごす時間はずっと夏空の下にあり、2人の関係が晴れやかな溌剌としたものであるように意味付けられているのかなと感じました。
補習が終わって階段を降りると陽だまりの中に陸上部の一団があり、あきらは下駄箱の陰にひそむ構図。そして校外へ出て汗だくで坂を登った先に渇きを癒す水があり、ひらけた風景を青空が包み風の音がする。あきらに自身の思いを悟らせるかのようなシーンだったと思います。
またはるかの放ったカプセルは青空から降ってきてあきらの気持ちを誘うようにも見える一方、夕立ちの中で出会った正己のもとから離れ階段を登るとそこには走る姿の写真集がある。思わずそれを手に取ってしまう一連の流れはあきらが心の底で求めているものを映し出していたように感じました。
正己が図書館を海に例えたのは本の世界に耽溺する自分を思っての事のように思いましたが、水族館と感じたあきらにとってはあくまで外から眺める対象でしかないようで、2人の暮らす世界が違うことを示しているのかななどと思ってしまいました。
正己と別れた帰り道、天から吹き付ける風にかつてのイメージをよみがえらせたあきらでしたが、見上げればそこには淡い月の光。
真夏の照りつける太陽がそこに見つかる時がいつか来るのかなと思わせる余韻があるラストシーンでした。
2週続けて友人関係を発展させてきたチセでしたが、ルツの言うとおりエリアスとの間はすっかり立場が逆転してしまったようです。
チセの自信溢れる雰囲気が随所に見て取れた回となりました。
出会ったばかりの頃からすると考えられませんが、エリアスに対して怒ってみたり目覚めなかったら魔法(?)を試してみたりと結構やりたい放題で、「私にも考えがあります」なんてどちらの熟練夫婦ですか?と言いたくなるほどですよね。
(思ってくれていると自惚れてもいいのかな…)なんて殊勝なことを独白していましたが内実は随分違うようです。仲直りの後も随分と関係に自信が持てる表情を浮かべていたように見えました。
人狼の毛皮を被ったときに狐ではなく狼の姿を取り得たことは、孤独に生きる者から群れの成員として生きる者へのステップアップを成し遂げたということなのかな?と考えていました。
今回はエリアスの子供じみた態度という事で片付きましたが適度にヤキモチを焼いてあげるのは寧ろ大切なことですし、自身を“わがまま”と自制してしまうチセにこそ必要な感情表現なのかな、と思います。デイビッドの言う“無理をしない”というのはそういう事も含んでいるのではないでしょうか。
カルタフィルスと灰の目という作中特異な“繋がり”を持たない者達の登場で俄かにかき曇ってきたストーリーですが、2人には頑張って乗り越えてほしいものです。
なに、いざとなったら僕たちのシルキーさんがハンマーでなんとかしてくれます。
書斎やベッド脇に乱雑に積まれた小説群と書棚にきちんと収められたビジネス書が正己の半生や性格を物語っていて、切ないような哀しいような気分になってしまいます。
決して田舎とは言えないような町で外出時に鍵をかけるほどのものも持たず、空腹を満たすためだけの飯を食い書に埋もれる生活。薄給の内から養育費を払ってもいるでしょう、そういう生活の中で本当に夢も希望も持たず長い時を過ごして来たのではないでしょうか。
散らかった生活感溢れる部屋の押入れから飛び出したあきらの衝撃は正己の人生に突如舞い降りた彼女の姿そのままのようで象徴的だったように思います。
短いスカートで倒れこんだり下着がお茶で透けたりするのを見ても、スケベ心より先に申し訳ないという気持ちが先走るその感じに共感が湧いてしまいました。
一方、自分の靴をそっと正己の靴に寄せたりシャツの匂いを嗅いだりと相変わらずのあきらでしたが、本当に正己のことが好きというよりはまだ恋に恋する乙女といった風に僕には見えました。でもその辺りのはっきりさせない感じが作品の魅力なのだと感じています。
また、自宅に押しかけたとあっていつも以上にときめいている場面が多かったのですけど、傘を持っての迎えに対する正己の「ありがとう」には何の変化もありませんでした。匂いのついた揃いのシャツになったことで家族のような気持ちになったのか、語られていない彼女の父親に向かうような気持ちになったのか僕にはわかりませんでしたが印象的な場面でした。
3話のモノローグに引き続き今回も出てきた『羅生門』。正己もいつか下人のように「生きる」ための決断を下す、そんな展開になっていくのですかね。彷徨うふたりの気持ちがどこに落ち着くのか見届けたいです。
ループタイを気にするエリアスさんかわいすぎました。今話はチセよりも骨頭さんにキュンとするような場面が多かった気がします。
クマのプレゼントの仕掛けに得意だったり出かけるチセのことを疑ったりと、すっかりチセに気持ちが向いているようで人間らしくなってきたなあと思わずウンウンと頷いてしまいました。
灰の目に捕まってしまった時はチセの姿になってしまうし、無事に会えた時はなんとエリアスの方から抱きついたりとその傾倒ぶりにはとてもびっくりしました。
そんなエリアスなのでステラが愛しい「僕だけの」チセに抱きつくたびに心穏やかではない様子が映し出されていてかわいそうになってしまうほどです。
ステラから「友達」と恐らく初めて他人から強い好意を示されたチセがはにかみ喜んでいる時にエリアスが何を思っていたのかと思うと切なくなってしまいます。
求めていたチセが「私のものを!」と過たずに見つけてくれて嬉しかった気持ちに冷や水を浴びせられたような気分ではなかったでしょうか。
折しもその瞬間は獣じみたチセとチセの姿をしたエリアスという姿の転換に応じるように立場までもがこれまでと逆転していて、実は物語の重要な転換点だったのかもしれないな、と思ってしまいました。
少し前後してしまいますが、2人がステラの提示した対価を受け取ると決めた瞬間は目の色だけがチセに戻っていて、2人の主導権がチセに移りつつあることを示していたのかもしれないなあと深読みしてしまいたくなります。
灰の目の言う「強い言葉」では未だ結ばれていない2人だけに今回の成り行きには心がざわつくばかりです。迂闊な言葉が関係にヒビを入れてはしまわないかと心配です。
余談ですが、僕はセルキーも大好きなんですけど魚のプレゼントを寄越してましたよね。アレ日本で言ったら新巻鮭みたいなもので一生懸命良いもの選んだんだなあ、と頭撫でたくなってしまいました。
セルキーかわいいよセルキー
2度のデートを巡って三者三様の思いが対比的に顕れていてとても見応えのある回でした。
天候やあきらの服装があまりに対照的で笑ってしまうほどでしたが、心情面でも丁寧な描写がされているように感じました
加瀬があきらのちょっとしたミスを手繰って約束を取り付け、心の傷を抉り、そこにつけ入ろうとするのは刹那的な関係で自分の利益だけを求めるアプローチの仕方であって、相手への思い遣りや気遣いといったものは微塵も感じられません。
また正己も独白したとおり、自分を守りたい、傷つきたくないという思いから何もアクションを起こせずにいます。
拒絶するでもない曖昧な態度は緩慢にあきらを傷つけるものであるのですが、一方で徐々に彼女に魅せられ揺れ動く様も描かれています。3人中最も難しい局面にあるように思います。
そしてあきらの姿勢も私を見つけてほしいという自己欲求から出ているのは2人と同じですが、ハッキリと異なるのは何より「好き」という気持ちが原動力になっている点です。一度観た好みでもなさそうな映画を褒め、乏しく不慣れな気遣いを発揮して砂糖を入れすぎて…と懸命な思い遣りを見せています。
別れ際の加瀬があきらの頬にキスしますが、あきらは妄想しつつも思い留まる。加瀬の行動はマーキングのようなものかもしれませんが、あきらのそれは自身の照れや羞らいではなく、恐らく求めていないだろう正己の心情への寄り添いがあるように感じました。
加瀬との時にだけ映された「航行禁止」の看板や1話に続いて屑かごから外れてしまった紙くず、要所要所で印象付けられる足の手術痕など気になる表現もたくさんありました。
あきらや正己の心の動きをしっとりと感じられるのがとても好きです。次回が楽しみです。
これは完全に余談ですが、個人的にはわざわざバイトに入ってきた吉澤くんがいつかあきらのピンチを助けてくれるのでは、と期待しています。彼、とっても好感が持てるキャラクターですよね。
ヴァイオレットの率直に思ったことを口に出す性質はいつも人の心を揺さぶります。それは時に本質を穿ち感動へと導くこともあれば、触れてはいけない部分に触れ悲しみや怒りを呼び起こすことも。
例えば目的地へと向かう車内でのアイリスとのやり取りで、カザリの地勢の説明で彼女を納得させた後すぐに苛立ちを掻き立てるところなどこれまでも度々描写されている通りですが、やはりこの点がヴァイオレットのドールとしての持ち味になって行くのでしょうね。
またヴァイオレットが、自身の振る舞いで人を傷つけてしまったことに気づかされた時や他人の気持ちが理解できない時には真剣に悩んでいる様子もよく出てきます。表に感情を出さない分内面は寧ろ人より激しく揺れ動いているのかもしれません。
そして彼女は美しいものを感じとる感性が豊かです。泣かれようが怒鳴られようが動じないヴァイオレットなのに、平坦な口調ながら美に魅了されるシーンは正に心奪われるといった風情でとても印象的。やはりそれは秘めた感情の豊かさを雄弁に物語るものだと思います。
人の感情を訪ね自らも成長してゆくヴァイオレットの歩みは黄前久美子のそれに似ているようにも感じます。
余人ならば避けて通るような道を怯まずに進むヴァイオレットの姿が痛々しくも心地よく感じます。
志摩りんはすごく長い髪です。手間がかかるのに大切にしてるんですね。それにソロキャンプ。今でこそバイクですけどそれまでは自転車で山道を登って、道具を買うためにバイトも頑張って…なんて自分の世界をとても大事にしてる人なんだと思います。
人との距離感も例えば長いベンチに座ってて誰かがきたら隣のベンチに移る、くらいの感じだと思うんですよ。でもそこになでしこが現れて、偶然だったかもしれないけどりんの世界に入ってきてやることにいちいち楽しんでくれて不思議と馴染んでしまった。
いつのまにかいっしょに夜空の下鍋を囲んで寝床も共にすることを許して…てな感じでいつの間にかあのりんがやらわざわざカメラに映って手振るまでになってるなんて!とか仕事中に考えてたらエモーションがアレして大変でした。ゆるキャン△のこと僕は何もわかってなかったですね。いいものです。
(補足)
スマホがとても重要なアイテムになっていることに今更気づきました。これって携帯電話の普及とキャンプ場にまで電波が届く今の状況がなければ成立し得ない趣味なんですね。それ以前は孤独そのものだった冬のソロキャンプが完全に変質してしまった、ということです。
1人でいても1人じゃない、2つのキャンプが繋がっている、りんはソロでありながらパーティなんですね。だから少女たちのストーリーが成立する。冬の寒空でひとりなのにあったかいドラマになるのはこんなポイントがあるからでまさに現代の物語です。よくできてますよね。
でも盛り上がってる野クルの3人は冷たいスイーツを食べてソロのりんはあったかいボルシチを、なんてところがさりげなく配置されていて心憎いです。
相変わらず劇伴もいい仕事していてほんわかするいいひとときです。楽しかった。
不吉な予感を呼び起こす副題を目にすると、次の年の秋を見られるか気にするチセも素直な気持ちでは見られません。少しイヤですね、心配です。
それはそれとして「ユール」、キリスト教以前からの冬至のお祝いの事のようです。双子の言っていた「ユール・ログ」とは大きな薪の事で魔力が宿るとされているそう。ブッシュ・ド・ノエルにその名残りがあるそうですよ。
これまでエリアスとチセを見守る大人たち、という関係性の中で物語は進行してきましたが、今回はチセに初めて友人ができた回でした。アリス・チセ共に恐らく人生で最初に得た正しい意味での友人であり、それに対する喜びや戸惑いが出ているように感じました。
先ずアリスですが、心の奥にしまっておくような話をいきなりしてしまう距離の詰め方の拙さや、いかに師匠と深く繋がっているのかを知らず知らずのうちに誇るような態度が、初めて友人ができた子供そのもののようでかわいらしいなと思いました。但し本人にも苦い思い出ですけど。
一方のチセは自分とエリアスとの間にそのような絆を結ぶ確たるエピソードが見つけられず少し嫉妬していたのでしょうか?何を言ったらいいのかわからず複雑な表情を浮かべていました。
それでもまた喜んで買い物へと連れ立つ様子と映された水鳥が、確かな友人関係の上の瑣末な気持ちに過ぎないと思わせてくれました。
エリアスの表情からは何も窺い知る事はできませんが、チセが女の子同士の秘密があることを告白した後の様子は自らの抱えるいくつかの秘密を思い浮かべているようにも見えて静かな葛藤を示唆しているようでした。
特に小鳥の使いの件はこれまでも再三描写されていることでもあり気になります。
明日のプレゼントを心待ちにクマのぬいぐるみを抱きしめて眠るところなど年相応の少女の振る舞いがチセの現在の幸せを物語っているようであり、一方でこれからその幸せが危機に襲われるのかもしれないという予感を呼び起こすものでもあって素直に喜ぶことはできなかったです。
カルタフィルスに灰の目、チセの体にエリアスの秘め事と不安要素が多くて心配になりますね。
でもそんな中「人間の先生」になんでも素直に聞けるようになったエリアスの様子はとても喜ばしいです。早くも2/3を終えた本編、2人には幸せの物語を紡いでもらいたいものです。
1話から印象付けられていたあきらの挫折が燻りだします。
石井を囲むはるか達の光景があきらの暗い記憶を呼び起こしてしまい、あまりに対称的なその光景にいたたまれずその場を離れるあきらに雨が降り注ぎ出します。ひと粒ひと粒質量を持つものとして描かれた雨粒があきらを物理的に打ちのめすのです。
美しいストライドで駆け抜ける姿はあきらのアイデンティティそのもので、その喪失は未だ感情として表に出すことすらできないほど深刻なものなのですね。療養期間中ずっと周囲は腫れ物に触るように接してきたのでしょうがそんな折に不意に触れた気まぐれのような優しさに縋っているように見えました。
「あなたのことが好きです」と伝えるあきらにいつもの上気した顔や興奮した様子は見られません。しかしそれが却って正己にとってみれば時が止まるほどに印象的な告白になっていて、どこか噛み合わない今後の行く末を想像させてくれました。
あきらと話すため乗り込んだ軽自動車で最初に映るのは後部座席の息子の荷物で、正己の背負った人生の重さがのしかかるようです。単純に喜べるような話ではないですよね、すごく共感できました。それでもすぐに2人の出来事について話そうとするあたり誠実な人だなと思います。
立ち寄った公園での散策をリードするのはあきらで、正己がふと立ち止まった敷石の一線を軽々と躊躇なく跳び越えて行ってしまいます。トリップした青春時代から「勇斗」の一言で引き戻してしまうのに「僕って言った!」の無邪気な笑顔で虜にしてしまう。
いいように翻弄される正己がうらやま気の毒ですね。
ローダンセ教官、歩んできた人生に自信と誇りを持ち毅然と立つ大人。この人の存在が大きく作品の雰囲気を変えてくれたように思いました。
それまでの手紙とも言えない手紙をヴァイオレットは今ひとつ理解できず自分は悪くないとどこかで思っていたのかもしれません。
しかし彼女の長所を十分認めた上でのローダンセのキッパリとした否定で、初めて心から手紙とは何なのかと考え始めたのではないでしょうか。
でもここでもローダンセは彼女に答えを与えることはせずあくまで自立を促します。おそらく自身も葛藤しながら多くの実務をこなし、その上で多くの生徒を導いてきた経験がありありと窺える見事な態度だと思いました。
ヴァイオレットはルクリアと正対し彼女の心を見ます。嗚咽する彼女を前にヴァイオレットに僅かなハイライトが当たります。戦場を生き抜いてきた彼女の勘が(これが心なのかもしれない)と絶好の機を悟らせてくれたのかもしれません。
横たわる兄に手紙を渡すのに2度の言い直しを経て「…手紙です」と言ったときの態度はこれまでの彼女とは全く違います。
必死に思い悩んで掴みかけたそれが確信の持てるものではない、それでも懸命に言い切る姿は儚げで不安そうで、別人のようでした。
暗闇の中2人を照らす小さな灯し火のように、兄へと伝わったルクリアの気持ちがそれぞれの希望となり温もりとなったように思いました。戦いで傷ついた2人の心をルクリアの優しい心がそっと掬い上げてくれたのですね。
再びローダンセの前に立ったヴァイオレット。ブローチをつけてもらってもまだ戸惑っているようでここに至ってもあれが「手紙」だとは確信を持てていなかったのでしょう。
そして厳しいローダンセも本当は全員を卒業させたかった筈で、教え子の成長を前に見せる僅かな笑みが実に素敵でした。
ルクリアが涙をこぼすシーンで彼女に寄り添えなかったりするのは友人としては褒められたものではないのかもしれません。でも不器用な態度が兄妹の心を繋げたように、それこそがヴァイオレットの持ち味なのかもしれません。僕はその方が素敵だな、と思いました。
ルクリアが初めて時計塔に登ったとき、不意の風に攫われた帽子はもう戻りませんが、今の彼女はそれを守る智恵と力があります。お兄さんと2人手を離さずに生きて行ってほしいと心から思える美しいラストシーンでした。
2人が出会う人々はいつも誰かと現れます。人か妖精かは問わずそれぞれの縁を伴ってそれぞれの関係を教えてくれているように感じます。親子、夫婦、師弟、兄妹、種を超えた関係、仕え見守る者同士。
1人で現れる人達もやはり誰かと繋がっていて、愛し愛され、許し許され生きていることを示しているようです。
シャノンとシャナハンの関係もあるべき場所に生きられない悲しさ空虚さを、そしてあるべき場所で生きる大切さを教えてくれていたように思います。
一度は命を手放しかけたチセを引き止めたのはエリアスとの出会いの時の言葉でした。淡く見えていた2人の縁の楔はあんなに早く打たれていたのかと、正直驚いてしまいました。飼い犬の首輪を引くようなそんなエリアスの言葉がチセの心に深く刻まれていたのですね。
「俯かなくていいよ 背筋を伸ばしてしっかり前を見るんだ」という言葉はエリアス自身が生きてきた姿勢そのものだったのかもしれません。
ティターニアへの宣言は彼の半生の惨めさや暗さを滲ませつつ、多くもなく濃くもなかったとしても温かく繋がった縁に支えられた毅然とした佇まいを思わせます。
灯りを守るシルキーも1人の寂しさを身に沁みて知っているだけに半ば怖さを抱いて家族の帰りを待ち望んでいたのでしょうね。そんな気持ちが痛いほどに伝わるだけに、みんなの帰還は胸締め付けられるほどの嬉しさでした。
毎回波乱があるようで静かに物語が進みますね。心穏やかに観られる実にいい作品です。少し心配していた2人の関係も今のところはやっぱり大丈夫みたいですね。とりあえずは安心して行く末を見守っていきたいです。
車内に残された忘れ傘で早速の雨上がり演出。降りて行った女子高生との対比で並外れて美しく長い足が強調されて、本能に逆らえない性格も合わせるとなんとなく美しく駆けてゆく野生動物の姿を連想してしまいました。
今回は吉澤くんがアルバイト仲間として登場。ほぼ認識されてなかったようですが、これで晴れて名前まで覚えてもらって小さくとも偉大な一歩を踏み出しましたね。無駄だと思うけど。西田さんの吉澤問答では全否定されていたのが悲しいですね。
ところで西田さん大層かわいくないですか?
駆け出して痛めた足に落ち込む風でもなく、正己の運転姿を見て喜ぶ始末。もしかしたら出会うきっかけになった傷に親しみすら覚えているかもですね。スマホに表示された店長の文字をつつく恥ずかしいところが出ちゃうなんてキャラクターとはいえ乙女には気の毒な仕打ちだと思いました。
出会いのシーンをうろ覚えでも思い出しかけてくれた正己に告白する直前、惚けて上気した顔が少し映ってあいかわらずの野生ぶり。
慎重そうな正己との対比が明確で簡単に進みそうにない恋模様が予感されます。
診察室からピンクのガーベラが飛んでましたけど、花言葉は「熱愛、崇高美、童心にかえる」だそうです。
今回のファミレスネタ帳。
炊飯ジャーがたくさん並んでましたけど、確か20年くらい前にデニーズで初めて見ました。炊きたてのご飯を出し続ける工夫です。それ以前はファミレスでも4升、5升の大釜で炊いてました。ずいぶんこれでおいしくなったんですよ。
あと欠員が出た時に限って忙しくなる飲食店あるある。経験した方ならすごく共感できるポイントです。それから加瀬さんがお尻でドア閉めるとことか、学生バイトがバックヤードで雑談始めちゃうところとか。細かいですね。
今他の方の感想見て思い出しましたが、他店の陳列見ちゃうのは店長あるあるですね。店員の動きとかもつい目で追っちゃうんですよね。結婚前の妻の人にずいぶん嫌がられました。
「やきそば、わし、食うよ?」で初めてのコメディタッチ。よかったですね。
初仕事に取りかかるヴァイオレット。彼女に自らの影を見たエリカはヴァイオレットの一見酷い顧客対応に希望を見たのですね。アレって実はみんなやりたいけどできないことでもあります。
初めての代筆を何故エリカがチェックしなかったのか最初わからなかったのですが、ヴァイオレットが何を書くのか純粋に興味があったのかもしれませんね。エリカが将来的に小説家になりたい人だとしたら人間ヴァイオレットに興味津々なのかもです。
カトレアが喫茶店で言葉の裏表について語ったときカトレアの顔にだけ光が当たりその後ろの画面ほとんどが暗い。裏の部分がいかに多いか物語っています。直後に映るヴァイオレットの顔の陰の側、一見率直な彼女にも裏の気持ちがある事を示唆していました。
カトレアの「相手を試すことで自分の存在を確認するの。裏腹よね」という一言がエリカへの「裏腹です」に繋がり、言葉にそして感情に裏と表がある事を目の当たりにしたヴァイオレット。そして少佐のこと以外で初めて彼女の感情の変化を促した仕事上での失敗。
でもその気持ちはやはり少佐へと繋がっていて、こうして少しずつ自分の感情に気づき、そして取り戻してゆくのだなと思いました。川縁で掴んだ胸元の空の手に最後に戻ってきたブローチ。穏やかな表情を浮かべたヴァイオレットは少佐に問いかけていたのか報告していたのか、温かい気持ちが湧いてきます。
最後に。クラウディアに「やめて!お願いごめんなさい…」と言わせたり、顧客対応に余裕を見せるカトレアですが、ヴァイオレットには一瞬感じた苛立ちを隠すように飲み込んで笑顔に変えています。この余裕がなくなった時の感情の爆発が楽しみです。エロいですね。
ゆるキャン△3話。経験豊かなソロキャンパーでアクティブなはずのりんより、なでしこの方がむしろキャンプを引っ張って行く。りんは大自然を満喫するというより引きこもりに行っていたのかな、と思いました。鍋で温まる体温と2人の関係が可愛くて微笑ましい、そんな気持ちになる良回でした。
妖精の塗り薬によって待ち望んだ邂逅を果たしたジョエルは満たされた気持ちで消え去っていきました。
一方塗り薬の力で愛を知ることができたリャナン・シーでしたが、彼が霞となって消え去ってしまったのもその副作用だったのかもしれません。瞬く間に失われてゆくジョエルを目の当たりにした彼女が果たして幸せだったのか…と考えてしまいます。
そしてジョエルはその最期の時に「きっと君のそばにも行く」と深い愛を贈りましたが、それは寿命の無いリャナン・シーを永劫にバラの庭へと縛り付ける呪縛にもなっています。
一瞬の出会いから互いに深い愛情を持ち静かに過ごしてきた2人が、その別れにおいてはエゴをぶつけ合っているようにも取れるのは寓話的に思えます。
これはチセとエリアスの行く末に待ち受ける運命でもあります。愛とは何か、エゴとは何か、恐らく近い将来に待ち受ける永遠の別れ、残された者のその先…。
チセが単純に悲しみだと思えないのは漠然とそれらを感じていたからではないでしょうか。
冒頭で狐の姿になって駆け出すチセでしたがその毛皮は「人の望みを叶えるもの」。チセが心の底で望んでいるのは自分の心赴くまま走り続けることだったのか、それとも行き着きたい場所があったのか。その辺りを考えると一見順調な2人の関係にも重い影が差してきたように感じます。
今回リャナン・シーは隣人(妖精)と人間の間にも色々な障害はありつつも愛は成立するという事実を提示しました。
しかしそれがチセとエリアスの関係にも適用できるのかと考えると何か足りないピースがあるように思えます。少なくともあれだけの疲弊を伴う魔法薬の作成を許したエリアスと、ジョエルの臨終に錯乱しチセの元に駆けつけたリャナン・シーが同じ位置に立っているようには思えませんでした。
僕はエリアスの足りない部分を補うのはチセという存在、もしくは彼女のもたらす何かというように考えていたのですが、それでは埋めきれない決定的に欠落したものがあるように感じます。
温かい情を育んできた2人がそのまま幸せになるのではないかと思わせる12話から大きな揺らぎを見せる後半を予感させた今回。チセの生命というなおざりになってきた問題がクローズアップされ事態は混沌としてきたようです。
秀逸な構成に圧倒されながらこの先が気になって仕方ありませんでした。
若い頃にファミレスの店長を数年やっていたこともあって細かい描写・演出に共感を感じる内容でした。
先ずはバックヤード。物の配置などは直接取材したところのトレースなんでしょうが、例えば目隠しの為なのに出口の暖簾がめくってあったり厨房スタッフの制服(特にバイト君の方)が汚れていたりするところはリアリティがあります。
それからオペレーションがすごく本物っぽくて、アイドルタイムになると休憩を回す傍で店長がゴミをまとめる、入り口案内担当の子は決まっていて料理を運ぶのはあきら、仕分けはパートの女性と役割がきちんと決まっている、料理を運びに出ると一回りしながらテーブルチェックをするetc.…(よく見てるなあ)と、感心しました。
特にテーブルチェックのところはあきらの教えられたことをきちんと守る生真面目な性格と新人(ですよね?)特有の忠実さが出ていていい演出だなあ、と思います。
あきらについてはそれ以外にも細かい演出で分厚い説明がされていたと感じました。
アバンの下校シーンで1つ壊れたハードルが置き去りにされる、駆け出したのに立ち止まり足を気にしてるタイミングで画面上方の陸上部のメンバーが追い越して行く、その後の投げ入れたゴミが外れたときはるかが投げたものは入る、などで彼女の未だ癒えない喪失感がよくわかりますし、学校一のイケメンに気づいていなかったり毎日同じ賄いを食べているところからは一途にのめり込む性格が伝わってきます。
それから最初の陽気に誘われほぼ一日中していたのであろう居眠りからわかる、彼女の快楽に逆らえない直情的な本性がシャツの匂いを嗅ぐシーンに繋がっておおーっとなってしまいました。
店長・正己も同様でクレーム対応でねじ込んだはずの厨房のバイト君に気弱になったり、うんざりするほど延々と繰り返されてきたであろうアルバイトへの対応がつい雑になったりするところは思わずウンウンと頷いてしまいました。わかるよ、わかる。
回想シーンの、病院帰りで落ち込んだあきらへ手品を披露するくだりからの「きっとすぐ止みますよ」という正己の一言が、その後の雨上がりでの恋心の微かな芽生えにつながって、うまい演出であるとともにテーマを明確に説明するよくできた初回だったなと思います。
『からかい上手の高木さん』。高木さんの造形が本当にかわいくてふんわりしたテンポも気持ち良かった。からかい方が思ったよりシンプルで西片くんがちょっとバカっぽく見えてしまったけど1話だからかな。
でもとっても丁寧だし2話以後期待してしまう。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。厳しい意見を幾つか拝読してからの視聴だったのでドキドキしましたが僕は悪い印象持たずに観れました。
大きな引き込みは無いかもしれませんが慎重に組み立てられた演出や世界観が細かな印象を積み上げて、物語の行き先に興味を抱かせてくれていたと思います。
多くの難題を抱えて希望すら持てない状況の主人公ですが、一方で(戦争の傷跡が色濃いとはいえ)街には人が溢れ新鮮な食料が山と積まれ女性達はお洒落をし人々の目は未来を向いていました。
物語の先行きの明るさが垣間見えましたし、ヴァイオレット自身もとりあえずの道筋がついてのラストでした。
愛を知る物語、という事でしょうが、それは一方で彼女が今までしてきた事を受け止めなくてはならないという事でしょうから、その点の葛藤は重く険しいものになるんでしょうね…。どのような形で語られてゆくのか楽しみです。
僕としてはかなり好きなタイプな予感がするので次回が待ち遠しいです。
不穏な幕開け。暴れる黒竜のような姿はやはりエリアスでしょうか。枯れた木々の間を歩く姿や雲母のような欠片を撒き散らしながら滑空する様は傷ついて弱っているようにも見えました。チセのきっぱりと決別するような表情も気になります。
本編は前半をそのまま引き継ぎ長閑な風景の中でのスタートでした。相変わらず背景が美しいですね。花の名前はあまり詳しくありませんが知ってる方なら品種も特定できるでしょう。少し映った小鳥はイングランドらしくクロウタドリの幼鳥かなあ?
それにしても「私はおいしそうでしたか?」「やっぱり君を買ってよかった」等、信じられないような斜め上の会話を交わしていますがこの2人にとっては平常運転なのですね。『ベルセルク』のファルネーゼじゃありませんが「…私に合わせて歪んでいるから」的な哀しく切ない愛情を感じます。
極めつけはエリアスの「チセのことは信じるよ、僕の弟子だからね」で、呆れますよね普通。最高の決め所だったのにこの台詞でガックリ、かと思いきやチセも喜んでしまうあたり適性を感じずにはいられません。
チセがピンチに陥る時にはいつもエリアスがうっかりそばにいなくて、ということが続いていますが、エリアスが頑丈なこともあり危機に鈍感ということは言えそうです。それに大抵はエリアス自身何とかできる自信があるんでしょうね。ですので灰の目の行動もそんな大ごとにはならないんだろうな、と信じたいところです。
それにしても種崎さんの僅かな間を生かす演技は本当に感心します。素晴らしいでよね。
まほ嫁8話。戦闘の直前に双方止めに入るあたりが夫婦芸みたいでよかった。チセが危うかった自身の行動に動揺し謝る姿にそっと頭に手をやり宥め頬(?)を寄せる、それを受け入れる様に関係の進展が見て取れました。その辺だいぶ自然になってきましたね。やはり2人の関係性がこの物語の主軸です。