1話から印象付けられていたあきらの挫折が燻りだします。
石井を囲むはるか達の光景があきらの暗い記憶を呼び起こしてしまい、あまりに対称的なその光景にいたたまれずその場を離れるあきらに雨が降り注ぎ出します。ひと粒ひと粒質量を持つものとして描かれた雨粒があきらを物理的に打ちのめすのです。
美しいストライドで駆け抜ける姿はあきらのアイデンティティそのもので、その喪失は未だ感情として表に出すことすらできないほど深刻なものなのですね。療養期間中ずっと周囲は腫れ物に触るように接してきたのでしょうがそんな折に不意に触れた気まぐれのような優しさに縋っているように見えました。
「あなたのことが好きです」と伝えるあきらにいつもの上気した顔や興奮した様子は見られません。しかしそれが却って正己にとってみれば時が止まるほどに印象的な告白になっていて、どこか噛み合わない今後の行く末を想像させてくれました。
あきらと話すため乗り込んだ軽自動車で最初に映るのは後部座席の息子の荷物で、正己の背負った人生の重さがのしかかるようです。単純に喜べるような話ではないですよね、すごく共感できました。それでもすぐに2人の出来事について話そうとするあたり誠実な人だなと思います。
立ち寄った公園での散策をリードするのはあきらで、正己がふと立ち止まった敷石の一線を軽々と躊躇なく跳び越えて行ってしまいます。トリップした青春時代から「勇斗」の一言で引き戻してしまうのに「僕って言った!」の無邪気な笑顔で虜にしてしまう。
いいように翻弄される正己がうらやま気の毒ですね。