プリンセスは決断を迫られる。ノルマンディー公に付くのか、アーカム公・リチャードに付くのか。王室内の苛烈なダイナミクスを前にしても、彼女は己の優しき正義と責任感のために道を選びきれなかった。
問われているのは、プリンセスが実際的にどう立ち振る舞うか以上に、優しいだけじゃない強さを貫けるかということのような気がした。
彼女のロンドンを分断する壁や階級格差の壁を無くしたいという願いは、確かにリチャードと通ずるところがある。しかし、リチャードの視線の先にあるのはこの一国に留まらず、大陸の植民地や世界そのものの壁を取り払おうというもの。プリンセスはそんな圧倒的な野望の果てにある底知れぬ不気味さと、何より力づくの血も厭わない変革に頷くことができなかった。
そもそも目的が異なるのだ。プリンセスはただ身の回りの日常を守りたいだけ。人々が貴賤を問わずに等しく笑い合える国を作りたいという、壮大ではあるが、どこかちっぽけな手の届く範囲の理想を追い求めるにすぎないのだ。
一方で、植民地を治めたを経験を持つリチャードが掲げるのは世界の修整。貴族と植民地の先住民はもっと平等であるべきという野望が滲ませるのは、一見平和なようであるが、10年前の革命を思わせる混乱の再来を感じずにはいられない。そもそもこの修整は果たして目的なのだろうか?その先のさらなる野望、例えばノルマンディー公を失脚させるような王室内クーデターの手段にすぎないもののように思えて仕方ない。
そんな思惑の中で、次期女王の冠を戴くメアリーは翻弄されていく。彼女はリチャードが王座に就くにあたっての障壁であるし、また決断を渋るプリンセスにとっての人質。ただ穏やかに暮らしていければいい少女にとって、女王の冠はあまりに重い枷である。
何を成し遂げたいのかというアンジェの問い。プリンセスはリチャードに付くのか、ノルマンディー公に付くのか、それとも自らが女王となるのか。目の前の小さな世界の理想を求めるだけの彼女にとって、いずれの道も簡単に選べるものではない。他人の手も、自分の手も汚せないのだ。しかし、プリンセスの決断を急かすように、謀略と陰謀のダイナミクスの中でメアリーが襲撃されてしまう。
後悔と切迫の叫び。プリンセスが選んだのはメアリーの亡命。一時の別れと危険、そして自らの立場の危うさをベットしたメアリーの安全の保証。
だがしかし、亡命作戦は失敗。ノルマンディー公の前にすべて曝されてしまう。亡命作戦も結局は逃げの選択だったのだ。プリンセスの穏やかさと優しさが今まで多くの者を救ってきた。だけど、それは盾であって、敵に立ち向かう鉾にはなれなかった。ノルマンディー公の手中に落ちた彼女は優しき姫から強き姫に変われるのだろうか。