乃木若葉と対比される郡千景という勇者は、ただただフツーの女の子なんだと思う。
完全無欠の勇者である若葉は、ただ人類の復讐のためという教科書通りの使命を胸に、時に仲間の犠牲さえ戦いには付き物として毅然に乗り越えることができる。
だけど、千景にはそんなことできない。市民の勇者の犠牲に対する心無い反応にいちいち怒りと憎しみを募らせてしまうし、何よりも世間から勇者である自分たちが英雄として認められないことに苛立ちを抱えていた。勇者になってまでなんて小さな人間だと思えるかもしれないけれど、でもそれは人ならばフツーに抱える感情なのだと思う。
それに、千景には故郷の村で疎外され、迫害された過去があった。これがますます千景の世間への怒りを加速させて、あろうことか市民を攻撃してしまう。すると、今度は彼女の認められない心が余計に深くなり、千景を罪悪感と自己嫌悪が蝕む。
そうやって、徐々に千景の居場所は消えていく。そして、フツーの少女である千景の「本当に大切な人、私を愛してくれる人とずっと一緒にいたい」という素朴な願いすら脅かされてしまっていた。
だから、ただでさえ人類の敵・バーテックスがどうとかに信念を持たない千景にとっての本当の敵は、乃木若葉なんだと思う。世間から英雄として認められ、千景にとっての大切な存在である高嶋友奈の傍にいるという若葉は、何よりも千景の居場所をこの世界から奪うもの。千景にとって、彼女以上の敵などこの世にはないのかもしれないようにさえ思えてしまっていた。