Annictサポーターになると広告を非表示にできます。
全体
とても良い
映像
とても良い
キャラクター
とても良い
ストーリー
とても良い
音楽
とても良い

最初に断っておきますが、自分は過去の鬼太郎作品はアニメの主要キャラとか技をざっくり知ってる程度で、アニメも漫画も基本怖くてちゃんと見てないです。水木しげる先生作品は、鬼太郎じゃない何か短編ホラー集と、あとラバウル戦記の一部を読んだ程度。

いやー、凄い(文字通りの凄い)ものを観たなという感じでした。

PG12でポスターも怖いので、どれだけ凄惨なスプラッタかと覚悟してたのですが、個人的には意外と大丈夫でした(進撃の巨人とかのほうがよほどグロい気がする)。いわゆるテンプレ因習村なので、スケキヨさんとか津山の事件とかに怖がってた子供の頃と比べたら余裕で観れた気がする…! でもそうはいってもフラッシュバックしがちな方とかは慎重になったほうがよいかもです。あと人を怖がらせるのが目的のホラーではないので。血よりスプラッタより妖怪より、よほど人の業が刺さる。怖いというより、哀しい。

なんか、ものすごく「昭和中期の映画感」を感じさせてそれがすごく良かったです。古風で早口なセリフ回し、何かと煙草を吸う主人公、往年の社会派ミステリ映画とかを彷彿とさせるような演出と絵作り。普通にモノクロ実写でレンタルビデオ屋とかにありそうな…。だからなんか、アニメを観たという感じがしないんです。妖怪バトルは確実に鬼太郎なのに。

いろいろな見方はあると思いますが、自分はこれを、広い意味での戦争(太平洋戦争だけでなく、「戦後」も含め今に至るまで)に斬り込んだ話として受け止めました。

戦後10年という時代感。あの頃の映画や小説って、初代ゴジラとかもそうですが、ほんとに戦争から地続きで、なんだかハッとさせられるんですよね。ちょうど今僕らが震災から10年後にすずめの戸締まりを受け止めているような、そんな距離感で戦争の痕跡がまだあちこちに燻ってて、そこら辺の誰もがついこないだの記憶として捉えているけど風化しつつある、そんなあの頃の映画と同じ匂いを確実に継承してました。自分はあの戦争はもう伝聞ですら聞いていなくて、伝聞の伝聞か、あるいはフィクションでしか知らない。もう直接戦争の話をほぼ聞けなくなったこの時代に、このゲ謎とか、この世界の片隅にとか、もしかしたらトットちゃん(未見)もそうかもですけど、せめてフィクションの形で少しでも語り継いで行こうという思いのようなものを感じるんですよね。もうこれから先は、フィクションの強大な力を借りるしかない。

こういう感想は、自分が戦争の話を直接聞けていないことへの残念さとかから来ているのかもしれません。水木達が生きてた時代はたしかに自分の祖父母たちがいきいきと過ごしていた時代で、ただ自分はあまり当時や戦時の話を聞かないまま祖父母を見送ってしまった。だからせめてこういうフィクションの中に彼らの生きた時代の空気を探そうとしてしまうのかもしれない。特に、祖父がかつて書いた文章を最近たまたま読む機会があったせいか、南方戦線を経て戦後モーレツサラリーマンとして戦後を生き抜いた祖父の姿を、水木に勝手に重ねて見ている自分がいました。昭和は遠くなりにけり。

水木しげる先生のラバウル戦記(一部しか読めてませんが)がとても衝撃的だったので、単なる伝奇ホラーではなく戦争の思い出を絡めていく本作の姿勢に真摯なものを感じました。村人や幽霊族や沙代、時弥までも利用する龍賀家の狂ったロジックはそのまま戦線での上官のロジックに、そして戦争というシステム全体のロジックにそのまま直結する。すごい怨念の塊みたいな妖怪が大量に出てきましたが、戦争中に無念に死んでいった人達とどうしても重なってみえる。水木の背後に大勢の兵士が見えたみたいに。そして戦争は実は終わってない。日本人は血液製剤で24時間モーレツに働き、その慣習だけは未だに尾を曳いてるのにもはや誰も豊かにならない。未来は明るくなんてない。今の令和の世だって、もちろん世界情勢的にも戦争と言っていい状況になってしまっていますが、軍事面じゃない僕らの社会生活だって結局まだ一種の戦争で、その怨念が日本中に漂ってる。「戦後」、そしてそこから今の令和まで続くこの日本社会は、そんな無数の怨念できっと出来ている。それもふまえてのあの展開なのかな。因習村はあくまでただの縮図や比喩であって。

それでも、子供たちがいるからこそ僕らは世界を終わらせるわけにはいかないのだ。時弥君の思いを受け継いで、次の世代の鬼太郎に託すために。救いのない世界で、それでも救いを見いだして人は生きていく。

なんとなくポスターから水木とゲゲ郎のバディものなんだろうなーとは想像できて、戦争帰りという設定が強みにも弱みにもなる水木と、飄々としてるけどめっちゃ愛妻家のゲゲ郎、という組み合わせは確かにバディとしては鉄板ですね。人と共に生きた鬼太郎のお母さん、かっこよかったな。

妖怪の造形、ちょっと江戸時代とかの妖怪草紙的な塗りになってませんでした? EDのタッチも原作っぽいし、とにかく丁寧に作られてる感じありました。昭和30年代を変に美化せず描いているのよかったです。よくここまで描いたなあという……妖怪ではなく、明治以降の日本社会の原罪みたいなのを。

前半の伝奇ミステリは小物のお約束テンプレ感がかえって安心感をもたらしてくれてましたが、ミスリードや伏線がうまくて、ミステリとして普通にすごくよくできてるんですよね。決して陰鬱なだけの話じゃない。社会派ミステリとエンタメ活劇とのバランスが見事でした。
しかし時貞の胸糞悪さはヤバかったw もうほんとに胸糞時貞に比べれば妖怪なんて全然怖くないですね。人が一番怖いです。CV石田彰な糸目もあれ一種のテンプレじゃないのかw ねずみ男っぽいやつよかったですよね。

あと狂言回しとしての現代のジャーナリストも、冒頭の胡散臭さが最後に大化けして大役を与えられて良かった。そう、これは、あの頃から70年経った今、記録し語り継いでいくべき物語なんだと思う。

パンフも売り切れてたし、もう一度見たいなあ。



Loading...