画家を夢見てパリに渡ったフジコと、バレエに心を動かされた薙刀少女・千鶴。二人の物語として始まるが、観ているうちに「主人公は誰なのか」がわからなくなっていく。
フジコの視点で話は進むのに、夢に向かって壁にぶつかり乗り越えていくドラマは千鶴の側にある。フジコは画家志望のはずなのに絵を追う姿はほとんど描かれず、千鶴のサポートに徹している。おそらくこれは意図的な構造で、谷口監督は「前に出る人だけがエトワールではない」という話をやりたかったのだと思う。
実際、最後にフジコが千鶴のバレエを描いた絵にたどり着く着地点は美しい。そしてこの着地は、フジコがパリを目指すきっかけになった「横浜で見た千鶴の踊り」に回帰しているはずで、構造としては円環になっている。ただ、道中でフジコがその原体験に立ち返る瞬間がほとんどない。千鶴の稽古を見てあの日の記憶がよぎるとか、何を描けばいいかわからなくなった時に「でもあの時の千鶴は美しかった」と思い出すとか、そういった執着の断片が途中にあれば、最後の絵は「ずっと心の中にあったものがようやく形になった」瞬間になったはずだ。それがないから、始点と終点は繋がっているのに間の線が引かれていないような感覚が残る。
テーマは好きだし、やりたかったことは理解できる。ただ120分の中でそれを体感させるところまでは届いていなかったように感じた。