登場人物1人1人の歪んだ感情や片想いを丁寧に描いた作品だった。この作品における恋愛はかなり歪んだ形で表現されて、主人公の花火や麦をはじめとした登場人物達の複雑でぐちゃぐちゃな感情が痛いほど伝わってくる位に緻密に丁寧に描かれてた。感情だけでなく、登場人物達の関係性もかなり歪だった。互いが互いを片想いの相手の代わりに見立てて関係を持ち続けた花火と麦、花火に片想いしつつも花火からの恋愛感情は得られないと知りながら、自分が代わりとして利用されていることも分かった上で花火と関係を持った早苗、男性から向けられる好意に快楽を見出し、様々な男と関係に持っていた茜など、その関係性は極めて特殊でそして歪んだものだった。関係性自体はそのように歪んだものだったけど、そのきっかけになったキャラの感情自体は決して特殊なものではなく、理解もできるものだったと思う。片想いの相手に自分を見てもらいたい、その相手に求められたいという感情、寂しさ・孤独から逃れたい、人間なら誰もが抱くような当たり前の感情がその根本にあったと思う。一見すれば理解できない、歪んでいる、人によっては気持ち悪いとも思う人もいるかもしれない。特に茜は関しては、不特定多数の男と関係を持ち、男女問わず結果として弄んでいたわけだから、嫌悪感を持つ人といると思う。その裏にある登場人物の心情に目を向けて見ると違う見方ができるんじゃないかと思う。少なくとも、自分は安易に非難する気にはなれなかった。それに、個人的に、おそらく作中のキャラ達は自分達の複雑な感情との向き合い方に関しても色々と悩んでただろうし、分からないけど分からないなりに折り合いをつけようとしてたと思う。作品を通じてキャラクター達の関係性はどんどん複雑になっていったけど、それでも最終的にはそれぞれが自分の感情に一応の区切りをつけ、前に進むことになった。花火と麦は、互いの片想いが実ることはなかったけど、お互いの片想いをきっかけに出会い、片想いの相手の代わりとして関係を持ち続ける中で色々な感情を共有した。互いに前に進むきっかけになった存在だし特別な存在としても見ていたと思うけど、最後には離れることを選んだ。この2人の関係性は終わってほしくなかった、何らかの形で続いてほしかったというのが個人的な本音だけど、それまでの歪な関係や2人が進んでいくために離れることが必要だったんだということも理解できる。個人的に好きな展開ではないけど作品としては正解だったと思う。それに、ここまで重く、人間の醜い部分も強く描いてきた作品だったのに、後味の悪さをほとんど感じさせない、ある種の爽快感すらもある終わり方になってるのは見事だったと思う。登場人物の複雑で歪な心情と関係性から描かれる重く切ないラブストーリーではあったけど、見応えのある作品だった。