ジャンプコミックス32巻収録分。
三条先生の表紙裏コメントはまさにこの回、「余の部下にならんか」について。
ドラゴンクエスト(ドラクエ1)でロトの勇者にむけた竜王の台詞、いわゆる「世界の半分をやろう」への明確なオマージュ。
自分は「ダイ大とドラクエにはそれほど深い関連はない」という持論を度々述べているけど、ここはさすがにドラクエへの強いリスペクトを感じるシーン。三条先生自身も表紙裏コメントでその様な意図を語っていて、このオマージュはほんとに素晴らしい。
かつて、ハドラーとアバンの間でも同様の会話がされているが(4話)、ハドラーがアバンへの侮辱も込めたその言葉と今回のものは少し意味が違う。大魔王は本心からダイを部下に迎えたいと思っている。人が悪意を持つという真理や、かつてバランが誘いを断れなかったことにも触れ、困ったことにとても説得力がある。
一方、大魔王バーンは、ハドラーの体に黒の核晶を埋め込んだ外道でもある。ハドラーという強者に対して改めて「敬意は変わらん」と評したが、その様な敬意と裏切りとを矛盾なく同居させられるのがこの男。桁違いの悪党、言い換えれば桁違いの屑であるのが大魔王バーンであり、仕える主としては最悪の相手だ。
ダイが迫害されても構わないと言ったのは、大魔王がどうしようもない詐欺師だからではなく、人を含めた地上の生き物全てが好きだからだという。
ダイの冒険は、ロモス王やレオナという隣人を助けるところから始まっている。最初は「勇者様」への憧れを持っていて、勇者のあり方として人助けをしていたところもあった様だから、この頃であれば「英雄という甘い幻想にしがみついていたい」という大魔王の指摘もあながち間違いではなかったかも。
しかし今は、ダイは大きな人類愛を持った太陽のような存在になっていた。
片やレオナ、大破邪呪文と契約した時に「人の神」の問いかけに答えた時の言葉。(63話)
「そんな難しいこと、急に言われても困るわ」という言い出しから紡いだその言葉は、ダイがロモス王やレオナを救ったような隣人愛の延長にあたるものと、ダイが「地上の生き物全てが好き」と言った様な人類愛と、その両方を区別せずに含んでいた様にみえる。「人の神」は、レオナが自分の「正義」を信じる意志の強さを試していた様だから、ここでレオナがどの様な正義を語るかに正解はなかったのかも知れないけど。
レオナは大魔王が言った様に「ダイに個人的好意を抱いている」一方で、「おまえを倒してこの地上を去る」とまで言うダイの気持ちも理解できてしまっていたと思う。ダイの言葉に涙まで流していたレオナを見ると、まったく切ない。
ヒムとキルバーンについて、それぞれ言いたいことがあるが回を改めて。
ヒムの「男ならこっちで来いよ、大将!」はとても良いね。