それ程派手な展開が有るわけではないし、メリハリが効いたストーリーという訳でもない。それでも蛍とギンの交流が穏やかに描かれているからこそ、その終わりに至るまでの描写がとても心に響く構成になっている
人間の蛍と妖怪のギン。触れたら終わってしまい、夏にしか会えない関係性。だから二人の仲が親密になっていく過程とはつまり、子供だった蛍が成長していくことで有り、成長する蛍と成長しないギンの立つ場所が違うという点が明確になっていく過程でも有る
最初はギンを楽しい遊び相手と認識していた蛍が、妖怪のようには見えないギンの素顔を知りギンの特殊性を子供ながらに理解し、触れ合えない自分とギンの境遇を実感し泣いてしまうまでの時間の流れ方
ギンに中学の制服を見せた辺りから二人の関係性が子供と妖怪から女性と男性になり、クラスメイトの男子に手を取られたことでギンへの想いを強くし、高校を卒業したらギンの近くに居られるようにと就職を考えだす変化の様子。
何もかもが丁寧に描かれているために、視聴しているこちらはもっと二人の感情に寄り添いたくなってしまう構成が見事。
「ギン忘れないでね私のこと」「その時まで一緒に居ようよ」という蛍の言葉がとても胸に突き刺さる
だからこそ妖怪の祭りを巡る二人の様子を見ていると不思議な気分になってしまう。妖怪が人間に化け人間の真似事をする空間。妖怪と人間の境界線が非常に曖昧になる環境。祭りを楽しむ蛍とギンは本当に普通のカップルにしか見えなかった。唯一の違和感は二人の手に結ばれた布だけ。そういった意味では二人が今の関係のまま近づけるのはこの距離が限界だったのだろうなと思える。
境界線が曖昧な状態だからギンは蛍に妖怪に擬態するお面を渡しその直後に誤って人間に触れてしまう。裏を返せばその瞬間だけギンは限りなく人間に近づいたということであり、人間の蛍と抱き合える唯一の瞬間だったと言える。その一瞬しか触れ合えなかった二人の心の内を考えるだけで感情が高ぶってしまいそうになる
ギンが居なくなった世界でもギンが居た場所の近くで生きていくと決めた蛍。それはギンが居なくなっても何もかもが無くなってしまったわけではないと知っているからであり、かつて自分がギンに願ったことを叶えるためでも有るのだろうなと思えた