妖刀似蛭は一風変わった存在だね。血を欲し持った者を操る刀であるけれど、子供のどろろがある程度抗えたように極度の強制力はない。つまり田之介が人斬りを始めたのは本人の意志が関わっていることになる
結局、妖刀はただの媒介でしか無い
今回は似蛭のように媒介を通しての遣り取りが幾つか見られたかな
冒頭、百鬼丸は雨中に佇む。彼は耳が聞こえないから雨が聞こえるわけはないけれど、身体に当たる感触を通して雨を聴いている
兄と再会したお須志は兄の好きだった栗ご飯を食べさせようとし、昔自分が泣いた際には鶴を折ってくれたと思い出の品を出す。それらを通して兄妹の絆を取り戻そうとする。しかし、表面的には田之介がそれに答えたようには見えない
優しかった田之介は自害を選ぶか、大工の首を斬るかの究極の二択を与えられる。お須志にすぐ戻ってくると約束した彼は自害を選ぶことは出来ない。けれど、きっと優しかった彼はその罪に耐えることができなかったのかも知れない。大工を切ったのは自分ではなく人斬りの妖刀であり、惨劇と自分の間に妖刀を通すことで罪から目を背けようとしたのかも知れない
回想から戻った直後の田之介の瞳が揺れていたのは印象的
けれど、妖刀を失いお須志を前にして自分の罪と向き合わざるを得なくなった時、初めて田之介は自分の罪を贖おうとしたのかな。だから百鬼丸の前に姿を現したのだろうか?
媒介があったとしても媒介が何かを通すように出来ていないなら想いが通じることはない
田之介が退いた後、窓辺には折り鶴が残る。それは田之介に変わらぬ心があることを示す証拠であるが、それは田之介の身体によってお須志にはすぐに伝わらない
田之介の心を知ったお須志は百鬼丸に殺さぬよう頼むが耳の聞こえぬ百鬼丸にその叫びは通じない。結果、百鬼丸は田之介を殺してしまう
田之介の手にお須志は顔を寄せるが、既に事切れた田之介はそれに微笑みを返してくれることはない
耳が戻ったことで身体に当たる感触が雨であったことを知ると同時に、お須志の鳴き声で自分の罪を知った百鬼丸
鬼との戦いで身体は幾つも戻って来たというのに、まるで何かを失っているかのような演出には驚かされる
ラストの折り鶴。あれは生き残ったお須志が兄の霊を弔うために捧げたものか、それともお須志も命を絶ったことを示唆するものか、どちらだろう……