本作は「歌でみんなを幸せにする」という使命を託された史上初の自立人型AIのVivy(ディーヴァ)が、100年の旅を通してさまざまな葛藤を抱えながら「心をこめる」とは何かを見つけていく物語である。
まず、1クールのオリジナルアニメ作品として総合的に見て質が非常に高かった。
歌姫AIを主軸にするという設定の新しさとニーアランドの絶望的な冒頭シーンは、オリジナルアニメ特有の「既存顧客がいない」という欠点を払拭して興味をひくには十分であったし、その後も2~3話の短編ごとにしっかりとテーマ設定と見どころが伝わってきて、観ていて全く飽きなかった。
脚本の長月・梅原先生もアニプレのラジオで言っていたが、まさに原作作品の「世界観の設定がきっちりとしている」とオリアニの「先がわからず面白い」という両者の利点を併せ持った作品であった。
また、シナリオだけではなく作画、音響音楽、声全てが洗練されていた。
作画個々で見ると9話の戦闘シーンや8話のオフィーリアの表情などもよかったが、全体を通して特に印象に残ったのは、要所要所で入るAIの寄りカットである。そもそも
Vivyに限らず「人っぽい機械」を両者のバランスを保ちながらどう描くかということはおそらく難しい問題で、それを助けていたのが一つにはここで指摘したカットだったのかなと思う。個々のエピソードは基本的に「人間らしさ」に近づいたAIの話が多い一方で、AIであることを意識づけるために不自然なくらい綺麗な目であったり、青い涙(オイル)のカットが使われたのかなと考えている。
音響音楽に関しては、Vivyは演じる声優とそのキャラの歌声に別の人を起用するという形が取られた。ただ、これが不思議と違和感がなかったことには今更ながら驚いている。種崎さんの当てる声もよかったし、さらに驚いたのは八木さんの歌声がVivyそのものだったことである。Vivyで劇伴OP/ED作曲を担当している神前さんは、八木さんの歌声を「体温が低い感じ、無機質で不思議な響きがある」と表現していたが、まさにそんな不思議な歌声だった。抑揚がないとか悪い意味で機械的な訳ではないが、機械的なのである。
音響もたくさんいいところがあった。細かいところだとアーカイブ接続時のノイズやもちろん4話エリザベスの戦闘シーンなどは鳥肌がたった。
声は特にマツモト役の福山さんが圧巻だった。流暢でかつユーモアのあるマツモトは作品のとても重要な部分を担っていたと思うし、ラジオを拝聴して本当に作品について深く考えてらっしゃる方なのだと感激した。
最後にVivyが出した「心」とは「記憶」であるという答えは個人的にすごく納得のいくものだった。
限りなく人間に近い自立人型AIの100年の旅で、人間の「心」とは何かのヒントをもらうとは思わなかった。