登場人物にとって現状がやるせなく、いかんともしがたい時、風景描写は冴え渡り胸を打つほどの美しさをこの監督は描くのだな。
練りに練った手紙よりも、たった一度の口づけで通い会う想いが存在するし、忘れられない恋慕が生まれると残酷なことを告げてくる。
いつまでも夢想の中に浸ることもできず、ロマンは薄汚れて理想も擦りきれて現実を選びとることになるのが大人ってことなのか、幸せって事なのか、何が正解なのか私にもわからないけど、誰にとっても『瑞々しい若い日の夢想と憧れ』は苦くて美しいモノなのだと思う。届かなければ届かない程に。
ロケットが遥か彼方にうち上がる様子を言葉もなく見守り、相手の心が届きようもない所を指している事を悟ってしまうあの美しいシーンは私もしんみり寂しくて、何かを抱くようにして眠る姿もまた美しく、悲しくなって泣いた。
こんな視座で物語を描いた監督が、どんな過程を経て「君の名は」のラストにまで辿り着いたのか、少し興味がある。