基本的には原作をなぞる形で、改変点は殆どない。元となったWeb配信版の尺が短いせいか詰め込み感もなく、70分の尺によくまとまっている。
ストーリーは全部知っているのだが、やっぱり色と声と動きがつくとインパクトが増すし、情報がよりわかりやすく伝わる。各キャラクターの声優の迫真の演技も相まって、原作の持つ陰惨さが際立つ。特に終盤、ダリルとイオの死闘の裏で同時進行するムーア同胞団とリビングデッド師団の悲惨な白兵戦、虫のように殺されていく連邦の学徒兵、そしてドライドフィッシュ奪取のためにムーア側が仕掛けた「作戦」など、展開を知っているにもかかわらず心を締め付けられるような苦しさを感じた。
原作の帯に「これが本物の戦場、本気の一年戦争」という煽り文句があったが、まさにそのとおり。この戦場にはニュータイプやイノベイターのような「奇跡」はない。イオとダリルだけではない、誰もが戦場からは、「殺し合う宿命」からは逃れられない。
絵がアニメになっただけで、これはもう「戦争映画」と言っても過言ではない。
「ガンダムUC」のチームが手がけた渾身の手書き戦闘シーンは「最高」の一言。昨今のCGアニメのようなスピードのある動きとはまた違った、モビルスーツの「重み」を感じさせるアクションは必見。冒頭のジム部隊vsスナイパーの戦いからガンガンに引き込んでくれる。
特に終盤のフルアーマーガンダムvsサイコ・ザクのコロニー跡の地形を使いながらの熾烈な戦いや、FAガンダムのミサイル全弾斉射をサイコ・ザクがギリギリでかわすシーンはクライマックスを飾るに相応しいかっこよさ。
ラストの僅かに描かれるア・バオア・クー戦も短いながらに見応えあり。サイコミュ試験型ザクの活躍を見れるガンダムアニメなんて、本作ぐらいだろう。
普段ジャズは全く聞かないのだが、菊地成孔の劇伴は素晴らしかった。
イオの聴くハイテンポなジャズもいいが、やはり印象に残るのはダリル側のラブソング。特に重要な場面で繰り返し使われる「女の子に戻るとき」がよい。
ガンダムファンでなくとも見ておきたい、圧倒的な質感を持つ「戦場」を丁寧に描いた力作。「MS IGLOO」あたりが好きな人にはかなり合うかと思われる。上映館が少ないのが惜しまれる。