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全体
普通
映像
普通
キャラクター
普通
ストーリー
普通
音楽
普通

『ドットハック』『ソードアート・オンライン』『ログ・ホライズン』が定着させ、現在では超メジャージャンルと化した「オンラインゲーム」系作品を「デバッガー」という一捻りを加えることで新しくしたアイディアにやられた一作。
「未完成のゲームの仕様や、未解決のバグ(グリッチ)を使ってゲームを攻略していく」というあまり既存のネトゲーものでは見たことがない光景には新鮮味があり(後に『RTA走者はゲーム世界から帰れない』など後発の類例が出てきてオンリーワンとは言えなくなったが)、ハガ一行が未完成のゲームやグリッチにツッコミながらゲームを攻略・デバッグしていく物語には何度も笑わせてもらった。
「モーションデータが入っていなくて、デフォルトのTポーズで歩き回るモブ」「特定の手段で壁をすり抜けられるグリッチ」「添削が不十分で禁則処理もされていない未完成のテキスト」などのあるあるネタにはクスリとさせてもらったし、どう見てもTAS・RTAが超有名な配管工のゲームが元ネタの「特定の手段を踏んで移動速度を蓄積させ、一気に解き放つことで高速移動する」というグリッチには大爆笑。
こうしたグリッチを利用して、デバッグ技を使い放題の他社のデバッガーたちを出し抜くバトルも面白かった。

ただ、そうして楽しめたのは中盤までで、そこからは様々な欠点が目につき、素直に楽しめなくなっていった。

まず、物語の舞台となるキングス・シーカー・オンライン(KSO)は、デバッグ中という点を加味しても杜撰に見えてしまう部分が多く「未来のすごいゲーム」という設定に説得力がない。作者のゲーム知識の不足が透けて見える。
設定では「現代より未来に作られた、『ソードアート・オンライン』のような体感型ゲーム」らしいのだが、6話では敵が想定よりも多く出現して処理落ちを起こしたり、読み込み途中のマップに放り出されて永久にフリーズしてしまったりと現代のゲーム基準でも未成熟に感じる仕様が残っている。
一番不自然さを感じたのが、デバッガーの一人であるヤマナカが陥った「フリーカメラモードを起動したら、元の肉体に戻れなくなってしまった」というエピソード。このゲームには「キャンセルボタン」や「ポーズメニュー」という概念はないんだろうか。黎明期のゲームじゃないんだから。
というか、ゲームらしい表現(ステータスウィンドウとか)がデバッグストーンを介してちょっとしか出てこないため、よくも悪くもKSOはゲームに見えない。アニメ的な演出を伴わずに壁を抜けてきたアソビングのデバッガーなどこれが演出面でいい方向に作用している部分もあるものの、もう少しゲーム的な演出が欲しかったところ。

ハガの同行者であるヒロイン・ニコラと、彼女を依り代に顕現するメタAI「テスラ」に魅力がないのもしんどかった。
ニコラは可愛いだけで、もともと「NPCの『村人A』」でしかないため戦闘はできず、パーティの足を引っ張るだけの存在だ。一応中盤で「『使用者のレベルに応じて威力が増す武器』を使うと、レベルの概念がないゆえに威力がバグって一撃必殺の武器になる」というかたちでパーティに貢献する手段は得たものの、読者はニコラが自分の能力や機転でハガたちを助けるのが見たかったのであって、「持ち歩きできる便利な最強武器」を見たかったわけではない(戦えないのに「装備」はできるんかい、というツッコミどころもある)。実際、ゲーデルと戦った際にはニコラの意識がない状態でアマノが武器だけを発射している点も「違うそうじゃない」感に拍車をかけるし、終盤ではハガ一行がニコラと別れてしまうため、武器の出番もなくなってしまう。
ニコラを依り代に現れるテスラはこれに輪をかけて最悪で、一方的かつ高圧的に、ハガたちに「お前らが真面目にデバッグしないせいでゲームは狂ったままだ。イカれたデバッガーを排除してゲームを正常に戻せ(※要約)」と要求するばかりの「KSOが正常化すればあとはどうでもいい」と考えているジコチュー女であり、好きになれる要素はゼロ。民のために傍観者をやめてサイ王国の統治を始めたアルバに自分の価値観を押し付けて「メタAIのくせになんでデバッグを要請しないんだ」と殴りかかるシーンや、前述の元の肉体に戻れなくなったヤマナカの目前で「お前は一生そのままだよ」と言いながらデバッグストーンを喰ったシーンにはちょっと引いた。

そして、上記の欠点全てが霞む最大の問題が最終回。
グリッチを利用した策でなんとか倒したレイドボス「サイレンス」が第2形態に変身してハガたちの前に立ちふさがり、アルバの策で追放されたニコラがサイ王国に戻りハガたちを助けようと決意するところで完結する中途半端な最終回は言わずもがな消化不良で、原作未完であることから視聴前から「俺達の戦いはこれからだエンド」はあらかじめ覚悟してはいたものの、その覚悟を悪い意味で超えてきた投げっぱなしジャーマンぶりにはお口あんぐり。ここはアニオリでもいいから、きちっと一区切りつけてほしかった。

レッドオーシャンとなっている「ネトゲーもの」ジャンルに「デバッガー」という味を足して差別化した発想や、バグ・グリッチを使った他のネトゲーものにない攻略・バトルは新鮮な面白さがあったものの、ディテールの甘さでケチが付いた作品。
特に物語に一区切りつけることを完全に放棄した最終回は最悪。仮に続きが作られてもあまり見たいとは思えない。



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