正直言うと二人の別離がとてもショックだった「星なき夜のアリア」だけど、だからこそ、この「冥き夕闇のスケルツォ」でのミトとアスナの関係性がより儚くも美しく映っていた。だから「星なき夜のアリア」に残念な思いをした人にこそ、この「冥き夕闇のスケルツォ」を見てもらいと心から思えるような作品であった。
「冥き夕闇のスケルツォ」を振り返ってみた時に、「リズと青い鳥」がふっと思い浮かんだ。SAOPはリズと青い鳥であり、またリズと青い鳥とは逆の百合であった。
ミトはアスナを閉じ込めておけなくて、どうしても放してしまう。だけど、ミトが放してしまうことでアスナは成長できたし、ミトもまた新しい自分の道を踏み出すきっかけになれた。それに、一度は別れてしまっても、またいつか彼女のもとに駆け付けても良い。
これはまさにリズが鳥かごの中に青い鳥を閉じ込めていたいけど、いつかは鳥かごから青い鳥を放ってあげなきゃいけないと葛藤することと逆の関係図であるような印象を覚えた。ミトとアスナというのは、リズと青い鳥とは真逆だけど、つくづくリズと青い鳥と一緒なのだ。こんな風に強く強く結びついた二人の想いの発露には理屈抜きに感情が動かされてしまうし、嬉しいことも寂しいことも全部胸に突き刺さって彼女たちに必死に共感できるという涙が溢れてくる。
バトルアクションの皮を被ってはいるものの、複雑で密度の高い百合という関係性。「星なき夜のアリア」で一度は完全に別れてるからこそ、「冥き夕闇のスケルツォ」で描かれる2人に深い深い感情の絡み合いを感じずにはいられなかった。
第二章が始まって早々にアスナさんがレイピアをモンスター、そしてプレイヤーキラーに奪われる展開にSAOにトラブルは付きものだなぁと改めて思うばかりだったけれど、この「冥き夕闇のスケルツォ」を一度見た後にこの顛末を思い出すと、また違った印象を感じる。
このレイピアは元はミトから貰ったフルーレを改造したもので、レイピアを奪われるということはアスナのミトへの気持ちを表しているようにも思える。第一章「星なき夜のアリア」のラストで、アスナを守れなかったことに責任を感じて、ミトはアスナの前から去ってしまった。レイピアを失った時、アスナはきっとミトのことを思い出して、あの時の強い喪失感や寂しさを感じていたと思う。レイピアを失った直後に座り込んでもうダメ……と呟いた彼女を押し潰そうとしていたのは、キリトがいない不安だけじゃなくて、ミトとの離別の回想もあったように映る。こんな残酷な世界の中で、やっぱり親友が隣にいないことは怖くて寂しかった。
それでも、物語は展開を進めていく。その後、アスナがプレイヤーキラーとモンスターから知的な策略と颯爽とした立ち回りでそのレイピアを奪い返す様はお見事としか言いようがなかった。
そして、5層ボス攻略を前にしたタイミングでのアスナとミトの再開。大一番を前にした場面、それもボス戦の協力を求めようというところでのミトの再登場にはアスナとのタッグがまた見れるのではと心躍らせずにはいられなかったけれど、残酷なデスゲームが舞台だからだろうか、そんな上手いように展開は運ばなかった。
ミトがアスナに打ち明けたのは、アスナを守れなかった自責の念と、また逃げ出して彼女を守れないなんてことがないように、もうアスナの隣に私はいられないという別離の宣告だった。さらに二人のデュエルでミトが感じ取ったのは、強くなったアスナの姿。もうこのデスゲームを一人で生き抜いていけるような彼女の成長を感じて、いよいよアスナの隣で守ってあげる必要もなくなってしまった。
それでも、アスナにとってはミトはかけがえのない友人であることに変わりはなかった。アスナ自身もそう言ってくれた。
だけど、自らの責から突き放してしまったアスナが、いつの間にか大丈夫ってその手を握ってあげる必要もなくなってしまったことに感じたミトの胸の内は、きっと空虚な孤独感と切ない寂しさに満ちていたと思う。もうダメと遠ざけてしまった彼女への想いだけど、その彼女から自立して遠ざかっていってしまうとますます切なくて、彼女を守れなかった自分が悔しい。
だから、これからもせめて彼女を守る助けになるようにと特殊効果の付いたアクセサリーを贈った。すれ違いを修復できそうなのにそうしない。そんな切ないけれど、ミトにとってもケジメを付けるために必要な別れだった。
だけど。いや、だからこそ。彼女はまたアスナのもとに駆け付けてくれた。ボス戦でのピンチの場面、死の覚悟を突き付けられた瞬間に再び彼女は現れた。「私はアスナを絶対死なせはしない。」そして、ミトが来てくれたからこそアスナは窮地を脱することができ、ボス討伐も成功した。
ボス戦後のミトの姿は、もう以前のように色んな自責に重く縛られたものではなかった。だからといって、またアスナの隣に来るわけじゃない。「見つけたいの、新しい生き方。」一度はミトと離れ離れになったアスナがいつの間にか強く気高い剣士に成長していたように、ミト自身も新しい自分への成長の一歩を踏み出した。だから今度はお別れはさよならじゃない。「いつかまた呼んで、絶対にすぐ駆けつけるから。」
そう、ミトとの二度の別れを経て、アスナが手にしたのは成長なのだ。残酷なデスゲームの中で自暴自棄になっていたところを、ミトとキリトが守ってくれて、自分を大切にしようとアスナは思えた。そして、今度は自分だけじゃなくて、キリトという自分以外の誰かも守れるようになれた。
寂しい別れを経験したけれど、その前に嬉しかった出会いや心強い絆が芽生えたことに変わりはない。ミトと別々の道を歩んでも、アスナの心のうちには想い出や絆と共にミトがいつもいてくれる。だから、アスナは力強く自分の道を踏み出せた。そんなことをEDで泣き顔だったアスナの表情が凛々しいものに変わった瞬間に思った。