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全体
とても良い
映像
良い
キャラクター
良い
ストーリー
とても良い
音楽
とても良い

・最初に断っておきますがこの映画、まだ1回見ただけで、細かいあらすじも世界設定もキャラの名前も理解があやしいです。ノベライズも他の方のレビューも全然読めてないです。何か誤認してたり見落としてたらすみません。ただ、頭はぐるぐるしていて、頭ぐるぐるする系映画は基本的に好物なので、見て良かった、と思ってます。ノベライズ読んだり2回目見たらまた感想変わるかもだけど、まずはファーストインプレッションです。

・岡田麿里監督作品をちゃんと見たのは「さよ朝」に次いで2回目です。世間の評判とか独断と偏見で、これまではなんとなくドロドロした情念の強い作風、という印象があったんですよね。実際さよ朝はその要素は強く感じましたし、本作の予告も「湿度高けぇ〜!」と思ってました。で、今回見て、確かに情念の強さ、思春期の少年少女の生々しい感情は予想通りでしたが、岡田監督はそこを超えてきたな、と感じました。いや、過去作見ればちゃんと前からあったのかもですが。ちょっと監督の印象変わりました。

・ハロワ民(映画『HELLO WORLD』同好の士)の方々から、ぜひ感想が聞きたいとか、作品世界の仕組みに興味持つならオススメとかの言葉を頂いてましたが、実際正しかったですね。世界の在り方を問う作品だということだけは察して、それ以外の前評判は一切遮断して臨みましたが、予想通りでした。こういうの、好きです。こういうのとは、要は現実と虚構に食い込む作品、第四の壁ぶち破る系作品です。

・これかなりSFですね。といっても自然科学のではなくて形而上学の。フィジックスではなくメタフィジックスの。スペキュレイティブ・フィクションとしてのSFかな。その意味では、アリストテレスさんは確かに出てこないんだけどかなりアリストテレスさんっぽいなー!というのは感じました。正直アリストテレスについては義務教育レベルしか知らないんですが、エーテルに満たされた永遠の世界だとか、何をもって「生きている」といえるのかとか(プシュケー、だっけ)とか。プシュケーの象徴かもしれない「匂い」や「痛み」が希薄な世界。「いたい」のダブルミーニングも出てきたけど、「痛み」とは何なのかとか、かなり哲学スレスレのことをやってる。

・TLでは『HELLO WORLD』との類似性を感じたという意見をよく見かけました。確かに似てます。「現実ではない世界」の住人視点の物語。ただ、方向性はかなり真逆な感じを受けました。現実も仮想もすべては等価であり優劣はないとする『HELLO WORLD』に対して、確実に「現実」が圧倒的に優位であり、善である。時がとまった見伏の街はただの「まぼろし」「まがい物」であり、しかも崩壊しようとしていて、主人公はそこから逃げたいと願う。自分は仮想世界の人間でも別にいいじゃんと思うし、現実になんて行きたくないなあと思っちゃうヘタレなので、ハロワ的世界観のほうが自分には合ってるし時宗派なのかもなんですが、まあ「痛みを伴いつつ生々しい現実に飛び込んで行く」ことが必要な場面は確かに人生結構あるんですよね。

・あの閉塞感のある見伏の町は、もちろんこの令和日本の閉塞感とも重なるんですが、たぶん「現実」に対する「虚構」「フィクション」と捉えると腑に落ちる気はしました。いつものこちらの勝手なメタ妄想ですが。どれだけフィクションが現実に近くても、完全一致はやっぱり無理で、どうしても優劣ができてしまう。レトロな時代設定(いつ頃なんだろう…平成初期くらい?)もまるで永遠に繰り返すサザエさん的時空をどこか揶揄しているかのよう。そういや映画冒頭の縦書きオープニングクレジットも往年の日本映画っぽさありました。

・佐上衛というエキセントリックな工場長的なキャラがいて、なんかもうすべてがむかつくんですがw、このカリカチュア的な大げさな言動、こんなにわかりやすい嫌われ役いるかいってくらいのクセツヨなキャラ設定も、彼がこのフィクション世界の頂点だからなんですかね。フィクションの申し子みたいな。最初こいつだけあまりに非現実的なキャラで浮いててノレなかったんですが、非現実だからそりゃそうかっていう。あと「自分確認票」ってあれ完全に創作でよくやる「キャラの履歴書」じゃないですか。まぼろし世界だから、普通そうはならんやろってことでも許されてしまうのは強い。自分確認票という制度もそうだし、中学生が車運転してるのとか(これは何か説明があったような気もする)。

・でも最後、正宗達は「俺たちは生きている」という結論にたどり着く。フィクションのキャラだろうとNPCだろうと、彼らにとってはそこが現実であり彼らなりの自我がありプシュケーがあり生きてるんだと。ハロワと同じ地平にたどり着いたようにも見えるけどどうなんだろう。あの世界は永遠の冬から解放されて開闢みたいな感じになってるのだろうか。永遠の妊婦さんもちゃんと赤ちゃん産まれて欲しい。それともやっぱりループは変わらなくて、それでも彼らは精一杯あの町で「生きて」いくのだろうか。

・で、最後、いくら現実世界が優位とは言いつつも、正宗の心は睦実のもので、どれだけ五実が上位存在側だとしてもそれだけは勝てないんですよね。それが虚構の強さ。現実側は何もできない。現実にはすべてがあるけれど、正宗の心は絶対に五実のものにはならない。

・この、ハロワと類似しつつもベクトルが正反対な感じ、デレマスの「Spin-off!」という6分の短編アニメをちょっと思い出したりしてました。
https://www.youtube.com/watch?v=LKuUDHz13Jg
ハロワの武井Pの言葉を引用します。
https://twitter.com/takei_katsuhiro/status/1193727049271132160
《映画『HELLO WORLD』で描いた〈物語の功罪〉のテーマについて、どちらかと言えばポジティブな側面を描いたハロワとは逆に、きちんとネガティブな側面も描ければと思い設定を組んだらしく、ある種ハロワの“姉妹作”と言えそうな「Spin-off!」》
モチーフ的な類似点(花嫁をさらい現実へと逃がす、バンでの逃走劇、成長が止まったキャラ、壊れる世界を修復しようとする力)とかもありますが、物語の功罪のネガティブなほうを描いているところは共通している。ただ、特にデレマスのほうは「アイマス自体が持つアンコンシャスバイアス」みたいなものに斬り込んでるのに対し、まぼろし工場はとくに世界の在り方に疑問を投げかけてるわけじゃない。見伏の在り方自体は悪じゃない。ただその住人にとっては息苦しい世界だったことは確かで、それはやはり作り手側の暴力性(この映画の作り手、ではないです! これが「虚構」だとした場合の仮想的な作り手)、創作者が持つ神以上にタチが悪い側面なんだけど、それはもうしょうがないわけで。

・虚構がもつ閉塞感と、時代が持つ閉塞感と、中学生くらいの閉塞感がすごく上手く絡み合ってる感じがしました。まだインターネットもない、家と学校が社会のすべてである時代。新しいことをやってはいけないという感覚。変化を恐れる気持ち。あの頃の自分はひたすらにアホで、自分で勝手にいろんなことのハードルを上げて、チャレンジする前から諦めてたんですよね。どうせ反対される、怒られる、馬鹿にされる、叶うわけがない、ならばやめておこう、もう忘れよう、みたいな。この世界がまぼろしでどこかに本当の世界があるんだ、みたいな陰謀論めいた厨二病にすら行き着かず、逃げ出したいとすら思わず惰性で生きてた。

・だからイラストレーターになりたい正宗、外の世界に憧れる正宗は自分にとってはまぶしい。内気そうな仙波ですら夢を持ってたし、園部や原だって想いを伝えた。そんな夢や勇気すら自分にはなかった。見伏の住人たちみたいなもんだ。ちょっと何かやりたいことができても、すぐに神機狼がそれを塞ぐ。そうやって自分で自分に勝手に呪縛をかけてた。最近ようやく「○○していいんだ」「○○があったっていい」みたいな境地に少しずつなってきたけど、たぶん死ぬまでこの呪縛は完全には解けないだろうな。

・そういう意味で、時宗や昭宗の生き方は興味深い。もちろん時宗も正宗のお母さんと新たな関係を築こうとがんばってるので、決して変化=悪と思ってるわけじゃない。ただ世界は1分1秒でも持続させようとしてて、まあ普通の大人の真っ当な考え方ではある。昭宗は描写が少なかったのでもう少し背景を知りたい気はする。あの日記とか。親から子への想いというのは「さよ朝」と近いものを感じた。主題歌にもある「未来へ君だけで行け」というメッセージ。それは正宗と睦実から五実への願いでもあったけど、昭宗から正宗への願いでもあったはずだ。いろんなものを見て、世界を知って、自分の知らないその先へ行って欲しいという願い。

・あとおじいちゃん列車動かすシーン、映画『バトルシップ』かと思ったw

・そして、1周見ただけではよくわからなくてもう一度ちゃんと見たいと思ったのが、現実世界のこと。あの、圧倒的に生に溢れた夏空と蝉時雨も強烈だったけど、現実では何か事故があったんだっけ? 正宗と睦実の娘はなんでまぼろしの世界に来ちゃったんだっけ…ノベライズ読めって話ですかね。娘を失った正宗と睦実サイドのことをもっと知りたい。こういうハロワB世界的なやつは好きなのですが、だけど今回は娘が行方不明という話なのでかなりつらい。現実では正宗はイラストレーターになれたのかとか、ラストシーンまでに何があったのかも気になるなあ(「彼女」、あそこまでにたぶん相当いろいろあったと思う)。このへんもう少し自分の理解が進むとまた違った感想出てきそうな気がする。

・もうひとつ、消えた人達どうなったん!? なんなのそのつらいシステム。現実世界との関係がどうなってるのかにもよるのかもだけど、さすがに心折れた状態で消滅してしまうのはつらすぎるので何らかの形でなんとかなってほしい。変わらぬ日常を維持するために、心に大きな変化があったら消すのだろうか。いやむしろ人が一人消えることのほうが日常の維持に破綻をきたすだろ…家族とかもショックで消えそう。入場者特典のポストカードで、正宗が仙波と園部の絵を描いてるやつ、映画観たあとに見てうわああってなった。正宗の中にあの二人の思い出が確かに、深く刻まれていることの証。でも彼らは戻ってこない…。それにしても正宗の趣味が絵というのは象徴的かもしれない。虚構の中の虚構。

・キャラについて。最初はヤバそうなやつだった睦実がだんだんごく普通の等身大の女の子になっていって。ある種のヤングケアラーだよな…。正宗のあの思春期特有の鬱々とした感情よくわかります。女子勢の心の機微はさすが岡田監督という感じ。といっても予想してたよりはエモーションを抑えめに描いてる感じはしました。自分的にはちょうどよい塩梅だった。主人公達ようやく最後に生を実感してたけど、自分からすると最初からしっかり生きて青春してるよ…鬱屈すらまぶしいよ!

・最後に主題歌の解像度すごかったですね…。とりあえずノベライズ読みます。

長げぇわw



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