九条ちひろは近藤正己に思い出を語りに来たわけじゃなかった。ファミレス店長をやりながら夢一個で生きている男に、自分を妨げているのは年齢でも才能の無さでもなく自分自身だと言いに来た、背中を押しに来たってことか。文学でも芸術でも音楽でも、世間に認められるという価値軸とは別に、自分の表現欲に忠実に生きるという価値軸があると思う。その執着があるのなら蓋をするべきではないと、ちひろは言いたいのだと思う。
あきらは陸上に戻るべきと感じ始めているけど、周囲に言われてやることではないという気持ちが先に立って、苛立っている感じかな。陸上に戻ることが店長との決別のように感じられるとすれば尚更。陸上部に戻ればバイトを続けられず、接点を失うことにもなるわけで。自分の店長への思いが何なのか、それをしっかり見つめつつ諸々を離着陸させていく……という感じになりそう。
しかしこの作品、おっさんとJKの距離が縮まるどころか、お互いを知るほどに開いていってる気がする。現実こそがそんなもんだと思うけど、フィクションなんだからもう少し攻めてほしい気がする。