他エピソードでは青春ファンタジー色が強い本シリーズだけど、本作で花楓が向き合うのは非常に現実的な問題。一度不登校になり中々外出ができなかった少女がどのように進路選択をするのかという問題
この現実的でファンタジーなんて感じられない問題に対して、花楓の周囲の人間がとても優しく支えてくれるし、また花楓の根底にあるのが微ファンタジーな『かえで』である点がとても良いんだよね
花楓はかえで程には引き篭もり少女ではないけれど、引き篭もりになるに至った要因は持っている。だから女学生を見れば足が竦むし、学校へ通うのだって何も思わないわけじゃない
だから彼女の進学は一大事として扱われ、周囲の大人は深刻に語らないわけにはいかなくなる。でも花楓が欲しているのは「普通」や「皆と同じ」
この感覚はとても必死なものだね。一度「皆」からズレてしまったからこそ、そこに戻りたい。そこに戻るのを当然と考えてしまう。また、花楓の場合はかえでが目指していたものを自分が実現しなければとの想いも絡んでくるから尚の事厄介な話になる
ここで咲太が花楓に寄り添い続けながら、花楓が受験に失敗した際のフォローもしているのが本当に良いんだよなぁ…。本来なら親がしなければならない一連の行為。でも、これはかえでや花楓を傍で見守ってきた咲太だから担わずに居られない役目。それを担えるだけのメンタルも持っているという点も大きいのだろうけどね
ただ、彼だって完璧な人間ではない。自身の受験については父親への相談が必要な部分があるし、そもそもの大問題としてかえでの消失を体感した人間
だから花楓の進学問題は花楓を悩ませると同時に咲太を悩ませるものになる。悩みは痛みで時折歩みを止めさせてしまうけれど、痛みが有るから先に進みたいと思うのかも
花楓にとって身体に現れる痣は彼女に非のない思春期症候群に因るものなんだけど、痛みで進めなくなってしまう自分が尚更に花楓はかえでよりも駄目なのだと思わせてしまうのかもしれない。だから保健室のシーンではあのような言葉を放ってしまったのかな…
でも進み方なんて人それぞれ違うわけで
それを最も体現している存在として登場する卯月の語る通信制高校の魅力というか、そういう生き方は花楓にもそして咲太にとっても進み方の見方を変えるものになるね
卯月と話してから表情の雰囲気がガラッと変わる花楓の様子にこちらまで温かい気持ちになってしまったよ……
そうして自分の進み方を得られた花楓だからこそ、最後にはかえでが行きたかった高校ではなく自分が行きたい高校を自分の意志で選べたのだろうね
勿論、それはかえでが過去の存在になったという事ではなく、かえでが居るから花楓が居て、その同一存在的な繋がりが花楓に花楓なりの進み方を授ける根拠となったのだろうし
微ファンタジーを背景としつつ現実的な問題を描いた本作。原作やTVアニメを見ていた時の気分を存分に思い出せてくれる内容になっていて、一介のファンである自分としては満足できる内容だったかな。冬に公開されるという続編、早くも楽しみになってきたよ