思春期症候群に悩む幾人もの少女に関わってきた咲太。それは一種のヒーローでありいわば救う側の人間として描かれてきたと言える。実際は救うというより寄り添ってきたという言い方の方が正しいのかも知れないけど
そんな咲太は前作『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』から引き続き兄として花楓の難局に寄り添い続けている
それでも全てが順調に進んでいて、あの麻衣ですら母親の想いと少しずつ向き合い始めている
そんな状況で咲太の前に提示されたのは母親との再会。でも、それとて話題の主となるのは花楓。久方ぶりの再会に緊張する妹に寄り添う兄という役割
それは問題が思春期症候群に悩む少女側にあるならば問題ない姿勢。だからこそ、咲太は自分自身の問題を放置していた点に全く気付かなかった。今作は咲太が知らず知らずの内に見過ごしてきたものを強烈に描いているね
咲太の姿勢って苦境に陥っている妹の兄としては正しいものなのだけど、意識するしないに関わらず兄として振る舞い過ぎるが為に自分を蔑ろにしてしまっている印象も受ける
咲太と理央が母親について語るシーンが有るけれど、そこで理央は自身の母親について母親になる事を拒み自分を保った人と語る。その考え方を転用すれば、咲太は思春期症候群を発症しかえでになってしまった妹を守る為に自分よりも妹を優先して兄になった人と言えるのかもしれない
咲太が半ば否定してしまった『自分』の中にはきっと母親の息子という立ち場も含まれているのだろうなと、今作を見ると思えるよ
世界から忘れ去られてしまったのは咲太に原因が有る。かといって咲太に回避できる可能性が有ったのかと言うと難しい話
というタイミングで今作はとんでもない光景を見せてくれる…
咲太が中学時代の行動を少し変えるだけで全てが救われる世界。母親を否定した事で世界から否定されてしまった咲太にとって居心地の良いけど不都合な世界
そこを逃げ場としないのが梓川咲太という人間の良い処だね。誰にも気付いて貰えない絶望的な世界でも、そこを自分の居場所だと確信できる
彼の強さの本質は自分の幸せから逃げない事なのだと改めて思えたよ
ただ、結局のところ、迷える咲太は中学時代に妹を救えなかった咲太とも言えるわけだから、自分を救うなんて難しい
そのタイミングで麻衣が迷える咲太の元へ一直線にやってきてくれるのが本当に良いと云うか、最高の彼女ですね!と言いたくなる。他にも母親の件で悩める咲太への麻衣の言葉が良かったし
咲太は『自分』よりも妹を優先して兄になった、その結果が今の迷子状態。でも麻衣は「大人になった」と言い換えてくれるんだもんなぁ
なら、咲太は母親に忘れられたとごねる子供ではなく、大人に近づく一人の人間として母親に向かい合う事が出来たと言えるのだろうね
TVシリーズに加え『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』という良い映画を通して青春ブタ野郎シリーズを描くに留まらず、映画2作という大盤振る舞いを味わえて喜んでいただけに、更に続編を作るという話には驚き
まだまだ本シリーズを楽しめそうで一人のファンとしては嬉しい限りですよ