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全体
とても良い
映像
とても良い
キャラクター
とても良い
ストーリー
とても良い
音楽
とても良い

前情報を全く持っていなかったこともあって、上映前の期待値はそれほど高くなかった。しかし物語が始まると段々とスクリーンから目が離せなくなり、劇場を出た後は、言葉にできない感動が心を満たしていた。面白かった、感動した、と文字にするのは簡単だが、「どうして?」と踏み込まれると上手く表せない。自分の語彙の無さが恨めしくなる。

戦争映画というと、自分の中では「『戦争は悲しいことだから絶対やめようね』というメッセージを嫌というほど込めたお涙頂戴系」か「『U!S!A! U!S!A!』なノリのミリタリーアクション」のどちらか、というイメージだったのだが、本作はそのどちらにも当てはまらない。強いて言えば「日常系アニメ」が近いかもしれない。そんな作風がとても新鮮だった。
内容的に、悲壮なBGMとかを流して「お涙頂戴ポイント」にできそうなシーンはいくらでもあったのに、あえてそういう直接的な演出からは距離を置いて、すずさんやその周囲の人々の生きざまを描く。それが逆に琴線に触れる演出となっていた。
無論、そういう「お涙頂戴」の要素が皆無かと言えばそうではないのだが、そういう部分を観客に「押し付けてこない」姿勢がとても良かった。

すずさんとその周囲の人々が生きる「戦争の中の日常」で進むストーリーは映像・音響の素晴らしさもあって面白く、序盤は戦争の気配を匂わせつつも、例に挙げた「日常系」のようなコミカルな場面も多い。すずさんの人柄もあって比較的和やかに話が進んでいく。
前半の「平穏」が面白いだけに中盤以降、本土に迫る戦争の脅威や戦争によって失われていく国民の心の余裕、消え去った平穏が心に突き刺さる。そして、広島に核爆弾が落ち、様々なものを失いながらも周囲の人に支えられ、前を向くすずさんの優しさと強さに胸を打たれる。

ストーリー面もさることながら、映像・音響も素晴らしい。
映像はアニメならではの表現が素晴らしく、リアル感のある描写と、時折挿入される幻想的・ファンタジックな映像、共に心に残る。絵を描かない水原の代わりに描いたすずさんの絵や、爆弾に吹き飛ばされ失神したすずさんの見る夢、空襲のさなかすずさんの目の前を飛ぶ水鳥、真に迫った空襲・空戦シーンなど、見るべきところは多すぎて両手では数えられない。
原爆投下後の悲惨な風景や、放射能に焼かれてしまった少女の母親などあえてぼかさずに描かれた悲惨な描写も真に迫っている。
音響もリアルにこだわっており、それが空襲や爆撃の恐ろしさをより強く表現している。特にすずさんを演じたのん(能年玲奈)の演技。上手・下手という単純な評価を越えて、「キャラクターに命を吹き込んでいる」と言ってもいいほど。のんという人の声に先入観を持っていなかったこと(決してプロの声優の演技が嫌いというわけではなくむしろ彼らも素晴らしいのだが、どうしても声優各人の『代表作』のイメージがまとわりついてしまう)も大きいが、「演じている」と思わせない、自然体の演技が逆にすずさんというキャラクターに実在感を与えていた。

「新たな戦争映画の傑作が生まれた」と断言してもいいほどの一作。某映画レビュアーが「5,000億点」と評するのも理解できる。個人的にも100点では足りない。
本当に万人に見てほしい、非の打ち所がない名作。



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