人生アニメだこれは……
「なぜ走るのか?」そのシンプルな問いに答えを出すのは難しく、仮に出たとしても本人がその答えによって幸福に至れているかというとそれは分からない
100m走という競技の中で、その競技を戦う人間たちの価値観、存在意義、もっと言えば生きる理由、そこに至るまでを書き尽くした作品だと感じた
100m走という題材をとっているものの、この作品における価値観というものは広く競技全般、もっと言えば人生全般に敷衍して語ることもできると思う
というのも、人間として生きている限り、好きなものや嫌いなものはできる
仮に好きなものができなかったとしても消去法的に「これはまだマシだ」と思えるものが見つかっていったりする(事実、本作における序盤の小宮がそうだった)
ただ、問題は、好きなものができたとしても、それをたとえどれほど好きでも、ただ楽しいだけということにはならないことだ
登山がどれだけ好きでも山を登っている以上しんどいことはたくさんあるだろうし、野球がどれだけ好きでも素振りやダッシュやノックといった基礎練を毎日こなすことをずっと楽しいと思える人は稀だろう
そういう意味で、生きている以上直面する「なぜ続ける?」「なぜ戦う?」という問いに、今作では100m走という競技を通して取り組んでくれたという風に感じた
また台詞の一つ一つがどれも名言かのごとく胸に刺さった
中でも海棠さんの「正しく現実を見なければ現実から逃避することはできない」といった言葉や、何より最後にトガシが言った「ガチになること」という一連の台詞。彼のここまでの半生のすべてを観てきたうえでたどり着いた結論と、それを二人で実践することの気持ち良さたるや……!
自分は『チ。』しか読めていないので本作の原作は未読だったが、弱冠21歳にしてこの作品を書き上げた魚豊先生が天才的だというのは言うに及ばず、アニメーションのクオリティも非常に高く、競技が始まる前の緊張感、競技中の息を飲む思い、また登場人物の挫折や葛藤に自分の感情を飲み込まれるような演出の数々、それらすべてを含めて一本の映画として観られるというのはとても贅沢な時間だった
100m走という競技がもはや生きることそのもの、生きる上での悲哀や歓喜といったあらゆる感情を引き起こし、そこに人生のすべてを乗せる、そういう男たちの生き様という点で言えば、去年大ヒットした映画『国宝』や、アニメだと『ピンポン』とも通底する話だったと思う