柳原と島田のあまりに見窄らしいポスターや棋匠戦開催の裏事情からそれほど期待されていないタイトルに思える冒頭からゆっくりと双方が掛ける意気込みやどうあってもタイトルにしがみつかなければならない理由が見えてくる展開は面白い
島田の事情は以前、説明されていたけどやはり時間が経っているから少し忘れていた部分もあった。それが駅舎の横断幕や応援に来た高齢者達の様子から思い出され、更に何時になく気合の入った島田の顔で彼がどれ程タイトルを欲しているかが判る
けれどそれ以上に激しく、それでいて静かに伝わってくるのは柳原の背負っているもの
これまで真面目に対局する場面があまり描かれてこなかったために「気のいいおじーちゃん」に見えていた柳原の内面がこれでもかと描写されていた。
昔は零と二階堂のように仲間たちと楽しくやっていた柳原。それが一人減りもう一人減り続け、その度に涙を流す彼らから想いを託されてきた。
そんな背景があることを知ってからあの賑やかな宴会模様や一人寂しくタバコを吸うがんちゃんの隣へ行く姿を見ると、散々失って託されて将棋を指し続ける行為から逃れられなくなった彼がそれでも大切にしたいものなんだろうなと思う
そういった意味では島田はあの光景をアウェイと言ったけど、それは柳原の味方の集いという意味以上に柳原の棋士人生の集大成でもあるゆえに、あの光景を前に柳原の背負っている部分が垣間見えアウェイと感じられるのかもしれない
記者は「A級から落ちたらどうします?」と聞いてきたけど、柳原にだってそんな先のことは判らない。多くの襷に纏わり付かれ焼かれている真っ最中の彼には目の前の将棋盤が全て
起床時は普通のお爺さんと何ら変わらぬ姿から将棋盤を前に老獪な化け物に変化した彼が誰も見たことのない新手でどのように棋士人生を見せつけてくるのか非常に楽しみ。