サービス開始日: 2023-06-02 (1229日目)
昼はしがない接客業の「山田さん」、夜は煙草をくわえた奇抜な装いの「田山」。表と裏の顔を巧みに使い分けながら進む日常のストーリーラインは、最後までぶれることなくその軸を貫き通しました。一見するとシンプルな構図でありながら、この設定を崩さずに描き切った構成力の高さには惜しみない称賛を送るべきでしょう。
本作の面白さは、単に喫煙所で無駄話を交わすだけの日常系作品にとどまらない点にあります。背伸びした奇抜な格好の裏に、等身大の優しさと少しの不器用さを覗かせる田山というキャラクター。彼女が醸し出す絶妙なエモさと尊さは、観る者の心をじわじわと掴んで離しません。派手な事件が起きずとも、漂う空気感そのものに強い魅力と抜群の安定感があり、いつでも安心して浸れる心地よさがあります。
そして、物語を締めくくる最終回での佐々木の言葉が、本作のすべてを物語っていました。
「知人というほど遠い距離ではない気がするし、友人と名乗るには知らないことがたくさんある。はたから見ると吹けば消えてしまうような関係かもしれません。でもあの子は俺の背中が情けなく縮こまっているとき、必ず「なんてことないよ」と背中を押してくれる子です。」
恋人でも友人でもなく、明確な名前すらつけられないふたりのあいまいな立ち位置。けれど、お互いの存在が確かに救いになっている——そんな曖昧で愛おしい距離感を画面越しに見守り、尊さを噛み締めることこそが、本作の一番の醍醐味です。
アニメ『CITY THE ANIMATION』を見てたときにも感じた「最初から最後まで作品の軸がブレないようにするパワー」をこの作品にも感じる。フォントを手書きっぽくしたり花火もわざとフレームレート落として馴染ませたり作画のベタ一つにしてもわざとザラザラ感を出したり。マジで隙がない。
「無自覚に最強な主人公」というお決まりの展開。どこか既視感はあるものの、なぜか癖になり、なくなるとそれはそれで寂しくて観たくなってしまう。作中キャラが主人公の無自覚さに突っ込むメタ的な展開も含め、アニメ界にはなくてはならない「薄口醤油」のような作品でした。
アニメタイトルの3分の1のタスクが終了しました。このペースで行くと残り2話で終わります。
第8話は、従来の「百合アニメ」というジャンルに新たなページが追加されたような、圧倒的な演出のパワーに満ちあふれた一話でした。
一般的なアニメーションにおいて、セリフは状況や感情を説明するための手段として用いられがちです。しかし、今話における言葉と画面の構築は、全く異なるレベルで機能していました。
「セリフ」単体を切り取っても、あるいは「映像」のカットだけを眺めても、そこにはどこか空白が残るように作られています。そのふたつが寸分の狂いもなく重なり合った瞬間、単なる「言葉+絵=状況」という足し算を超えた意味と感情のうねりが立ち現れます。
また、視聴者にすべてを説明し切るのではなく、余白を残して「読者(視聴者)の解釈」に委ねる姿勢。それこそが、作品に底知れない深みを与えています。まさに良質な文学作品や国語の文章題を読み解くような知的な興奮に満ちています。
「かわいい女の子たちがお酒を呑んで戯れる」というキャッチーな枠組みを借りながら、その実、表現として到達している地点は非常に尖っていて誠実です。これまでの百合アニメの常識を心地よく打ち破り、アニメーションという媒体だからこそ表現できる「言葉と映像の化学反応」を見事に証明してくれた傑作回でした。
この作品の凄さは、いわゆる異世界転生モノの枠組みを借りながら、リアルな「社会構造の変革」を描いている点にあります。
前世の知識を使って無双するだけならよくある展開ですが、本作が決定的に異なるのは、ひとつの技術や仕組みを社会に定着させるための「泥臭いプロセス」を逃げずに描写していることです。印刷技術ひとつ導入するにしても、紙の製法からインクの開発、さらには流通網の整備や利害関係者との交渉まで必要になります。組織の中で部下を動かすための人心掌握やマネジメント論まで網羅されており、観ていて「これは現代のビジネスや組織運営にも通じる人生の教訓だな」と教えられる場面が何度もありました。
主人公・マインのキャラクター造形も実に秀逸です。彼女の全行動の原動力は「本が読みたい」という一点のみ。この偏執的とも言える情熱が物語をぐいぐい引っ張っていきます。そして何より、チート級の知識や膨大な魔力を持ちながら、歩くことすら覚束ないほど「超・虚弱体質」という致命的なリスクを抱えているのが最高に効いています。決して万能の無敵ヒーローにしないことで物語に常に緊張感が生まれ、周囲の助けを借りざるを得ない展開が人間ドラマをより深めています。
また、作中で描かれる本にまつわる技術革新のプロセスは、歴史の追体験としても実に刺激的です。日本や世界の出版史をなぞるように製紙法や分類法が導入されていきますが、それに対する異世界人たちのリアクションが実に生々しい。「歴史上の人々も、初めて紙や印刷技術を目にしたときはこんな風に驚き、戸惑ったのだろうか」と妙に納得させられますし、作品を観ながら歴史の奥深さに触れる喜びを味わえます。
中でも印象的だったのが「日本十進分類法」の登場シーンです。異世界の図書分類にこのシステムを持ち込もうとしたマインが、興奮気味に「魔法はどのカテゴリに入りますか?」とフェルディナンドに詰め寄るくだりには思わず吹き出しました。周囲の冷ややかな視線も意に介さず、本のことになると周囲が見えなくなる彼女の姿に「あ、こいつ本当に筋金入りの本好きなんやな」と呆れつつも愛おしさを覚えます。
ただの異世界ファンタジーにとどまらず、歴史の知恵と人間ドラマ、そして圧倒的な「本への愛」が詰まった見応え抜群の傑作です。