『true tears』 94点 ※再視聴して書き直しました
全てが美しく整った奇跡の作品
■作品の紹介
P.A.WORKSの第1作目にして出世作。2008年の冬アニメ。
この作品を観た麻枝准氏が『Angel Beats!』の製作依頼を決めたようで、
当時から映像面でのクオリティーが秀でていたことが伺える。
またDVDは2千枚しか売れなかったが、BD生産で1万枚もの注文が入った。
時間が経ってから作品の質が認められた正真正銘の名作である。
■作品の見どころ
"涙"をテーマにした恋愛ドラマ。雪が印象に残る青春群像劇。
恋の発生から、苦しみ出した結論までしっかり描かれている。
登場人物の内面は、短い言葉や表情や暗喩で示されることが多く、
想像の余地を残した"余白"が視聴者の没入感を高めている。
タイプが異なる2人のヒロインの魅力が遺憾なく発揮されている。
■石動乃絵(いするぎのえ)
いわゆる不思議ちゃん。人の心を見抜く独自の感性を持っている。
自分と鶏を重ね、高く飛ぶことが夢。主人公にその資質を見出す。
終盤[真心の想像力]には自信があったにも関わらず、
〈相手の真の感情〉に対して何も見抜けないことを悟り絶望する。
冬が終わり、失恋を実感した時、彼女は《真実の涙》に辿り着く。
■湯浅比呂美(ゆあさひろみ)
幼馴染で主人公が好き。しかし家族内で精神的な圧迫を受けていた。
その後、一人暮らしを決断してからは本来の自分を取り戻していく。
終盤[女性の強み]を理解し計算高く駆け引きをするが、
〈自分の醜い感情〉を自覚してからは待つことに力を注いだ。
最後は告白され「嫌」と拒みつつも、彼女は《真実の涙》を流す。
■仲上眞一郎(なかがみしんいちろう)
酒蔵を営む家のひとり息子。周囲からは「坊っちゃん」と呼ばれる。
踊り役の花形を任されていることから、容姿も良いと考えられる。
普段は絵本作家になるという夢に向けて日々努力を重ねており、
終盤では、恋愛で受け身だった自分に気づき誠実であろうと努めた。
状況に流されがちではあるが、女性からの好感度が高いのは納得がいく。
■ノエヒロミ戦争
乃絵派「あの腹黒女許せねー」、比呂美派「あんな電波女ありえん」
など両者の溝は深く、当時はコメントでも掴み合いレベルの抗争が頻発した。
これは視聴者が、理想と現実どちらを重視しているかで好みが分かれ、
今風に言えば、陰キャと陽キャが相容れない現象と似ているかもしれない。
この様な対立感情が生まれること自体が面白く、脚本の巧さが垣間見える。
■総評まとめ
本作は、飛ばない鶏や絵本でのダイブからも示唆されているように、
〝選択をして前に進む意思の形〟を多様な視点で描いた物語だと言えよう。
最後に乃絵がたたずんで主題歌が流れ続けるシーンは本当に凄くて、
とても切なく、だけど気高く歩みだそうとする最高に美しい絵にみえた。
観る度に新しい発見があり、評価は上がり続けるばかりだ。
『スーパーカブ』 73点
■作品の魅力
カブとの出会いで徐々に変わっていく生活。
空気感が伝わる作画や音響。
多くは語らず笑顔だけで物語に引き込む演出。
そんな序盤の雰囲気の良さは群を抜いていたと思う。
懸命にバイトに注力する主人公の姿も新鮮だった。
■ツッコミどころのあるシナリオ
5話の礼子回…山頂凸展開が異質で狂気じみてる問題。
6話の旅行回…小熊さん不良化&道交法違反問題。
11話の救出回…連絡しないし前カゴ乗せるし問題。
この辺を上手くフォローできてればだいぶ印象は違ったはず。
まあそれが礼子であり小熊というキャラなのだろう。
(善悪は別で、行動を否定しているわけではない。)
■感想まとめ
《スーパーカブ=救世主》というテーマで一貫性があった。
現実にある謎のカブ信仰を上手く作品に落とし込んでると思う。
中盤以降の小熊のイキった態度については、
〝気兼ねなく自分を出せるようになった現れ〟として受け取れた。
むしろ年相応で大変微笑ましかった。
『平穏世代の韋駄天達』 85点 ※再視聴して書き直しました
「人間」を取り扱った神と悪魔の抗争
■表のテーマは『価値観を揺さぶるエンタメバトル』
《人間のため魔族を滅ぼしたい韋駄天側》
《人間を利用して繁栄し続けたい魔族側》
韋駄天側では上位存在ゆえの危うい視点を見せ、
逆に魔族側では人間的な感情や欲求を描いている。
直接戦闘に加え、頭脳戦を重視する展開が抜群に面白い。
■裏のテーマは『人間讃歌へのアンチテーゼ』
・人間を搾取する魔族
・祈ることしかできない人間
・その思念から生み出される韋駄天
人間代表のシスターは、魔族側には凌辱され、
韋駄天側には思想が薄っぺらいと一蹴されてしまう。
人間は物語の主役にはなれず、
〝簡単には救われない存在〟という立ち位置を貫いている。
■感想まとめ
エロ描写や残虐性などで人は選ぶだろうが、
早く続きが観たくなる純粋な面白さがあったと思う。
中途半端なぶつ切りエンドは残念だが、
埋もれた良作を高品質で世に出してくれたことは評価したい。
鳥属性のポーラちゃんはマジ天使かと思える可愛さだった。
『かげきしょうじょ!!』 72点
■構成上の課題
序盤で奈良っち、8話で星野さんの話をしてしまったために、
[渡辺さらさの主人公性]が弱まってしまっている。
もっとさらさに絞って入学するまでの動機を掘り下げた方が、
1クールの物語としては引き締まったかもしれない。
■悪かったところ
[強制的にキスを迫った父親]
[ナンパで暴行しても捕まらない男2人組]
[冤罪を引き起こしてるのにガン無視する双子]
[決めつけでパワハラしておいて謝る描写の無い先生]
これらは被害者がスルーされ気味でスッキリしない。
悪意に対しての断罪は欲しかった。
■感想まとめ
全体的に作画や演出の出来が恐ろしく良い作品だった。
演劇での指導が的確で勉強になった。
キャラの個性が超輝いており、それぞれの成長が楽しめた。
『白い砂のアクアトープ』 55点
■テーマが乱雑
不必要な話が多く「何を伝えたい作品だったのか」となってしまう。
《水族館という特殊な職場》と《海洋生物との向き合い方》、
ここに腰を据えて掘り下げていれば名作に成れたかもしれない。
■キャラの成長
風花はなぜ急激に強キャラ化したのか。これがわからない。
[アイドル→飼育員→海外研修]この動機部分に納得感が無い。
くくるは[悪戦苦闘しながら諦めずに仕事と向き合う話]が
最終話手前でもう1話あれば作品の印象も良くなった気がする。
■感想まとめ
[作画/雰囲気/仕事描写/キャラデザ]などは評価できるが、
やはり脚本の力が大きく足りなかったように思う。
キジムナーは、幻覚で良い方向に導いてくれていたようだが、
単純に《物語のノイズ》に感じた。
イルカは水中で風花と絡んだ後、勇気をだして旅立ったのかな。
『ブルーピリオド』 74点
■作品の魅力
美術と受験に真摯に向き合って、恋愛要素を広げなかったのが良かった。
特別な自分感など、思春期の不安定さが鋭く掘り下げられていた。
専門性の高い内容を上手くストーリに溶け込ませられていた。
「技術で本音を隠すより、本音を技術で武装する。」など名言も多い。
■クリエイター視点の良さ
[自分独自の閃きや工夫が相手に伝わった時は凄く嬉しい。]
この気持ちには凄く共感できるし、多くの人に刺さり得る内容だと思う。
また《内面をさらす怖さ》や《劣等感との向き合い方》など、
マイナスの感情についても考えさせられることがあり深みを感じた。
■改善ポイント
主人公が絵画にどんどん夢中になっていく過程がわかり辛く、
視聴者も一緒に引き込まれる仕掛けや工夫がもっとあれば良かった。
「優秀な原作を無難にナゾッただけ」という印象はぬぐえず。
頑張ればもっと上を目指せる作品だったとは思う。
■感想まとめ
早く続きが観たくなる力のある作品。
八虎が才能を伸ばし続けられたのは、本人の真っ直ぐな努力と、
[友達、先輩、美術部、予備校]と良い導き手があったからこそか。
2次試験のヌードデッサンだけは自分も見学したかった。
『無職転生』 86点 ※再視聴して書き直しました
人は欠点をどう捉えるのか
■本作の真価が発揮された第17話
憔悴し、苛立ち、反省し、最後は抱き合えたパウロ回。
弱さも含めて共感できる部分を丁寧に描いているからこそ、
本当に良かったなと思える上質の感動ドラマを生み出せている。
『欠点のある人間が苦しみつつも報われていく』という、
作品の大きなテーマが色濃く感じ取れる素晴らしいエピソード。
■「気持ち悪い」とよく言われる問題
ネガティブに受け止める人が非常に多いと感じる。
醜いものを忌避してしまうのは仕方のないことだが、
エロさやゲスさは人間ならば誰しも持っているはずだ。
もっと工夫すべき余地はあったかもしれないが、
正面から避けずに作品に落とし込んだ姿勢は評価したい。
■諸刃の剣である性表現
懸念されていた通り、主人公やパウロが不快だと叩かれ、
中国で配信停止にとなり日本でも評価を下げる人が続出した。
しかしそれでも、視聴者は彼らのことをより深く理解できたはずだ。
〝身近にある苦悩や欲求〟を描くことでキャラの解像度を上げている。
広くウケることではなく、深く刺さることを選んだのだと考えられる。
■ED映像で1人だけ透明な理由
他者に踏み込めない自分が、窓を開き、色鮮やかな世界を体験する。
冒険を通じて〝心から信頼できる仲間〟を見つけた…ということだろう。
また、ヒトガミに会う場面での主人公の精神は昔のままなので、
無職転生は『ルーデウスになる物語』と言えるかもしれない。
内面に光を当てる演出となっていて、制作陣のセンスの良さが伺える。
■総評まとめ
魔力災害を受けて「どう変わったのか」が問われた2クール目。
完璧な出来とは言えないが、深夜アニメの本気は感じられた。
作画と演出の頑張りでストーリーの弱さをカバーしている。
前世の業を背負い、少しずつ人生を刻んでいくスタイルの本作。
なんとか最後まで続いて歴史に残る大作になって欲しい。