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「私嘘なんか吐いたことがないもの」
化物語のキャラクター描画(というかスタイルというか)はかなり幅があるが、千石の二回目に手を避ける顔は随一にかわいい。
第貳話で触れた精神医学の用語が「多重人格障害」とここで具体的に示されるのは注意に値する。



阿良々木と神原の掛け合いに笑う千石は彼女の重い思慕からすると妙に年相応で印象に残る。
中学生がスク水で悶えるというまた趣ある描写だが、流石にシリアスな場面だからかここでは性的な目線が露わには描かれない。
阿良々木はアウトサイダーに寄り添いながらも「助けるべき相手」があるというのが示されているが、「諦め切れなかっただけだ」という言い回しは「正しい対応は犠牲者を出さない」という思想が滲んでいる様にも取れる。



「腕を組むのは不味いでしょう」全くその通り、猛省せよ



神原の深層心理は戦場ヶ原より余程攻撃的で「悪」らしいものだった訳だが、そこで阿良々木は「弱さ」などと言わずに肯定しようとする。ここは忍野が指摘する様に戦場ヶ原の時とはやや態度が異なる様なところがあって、「諦める」という姿勢が受け入れられなかったのか、自己犠牲癖の発露と読むべきか。まぁこの回に限って言えば後者の方が前々回の戦場ヶ原の台詞も回収して、戦場ヶ原が首輪を付けるという構図になり収まりがいいのかもしれない。



「それを私は良しと出来る」受け入れるなどと弱気な言い回しをしないのが神原の高潔さを示しているし、まただからこその嫉妬する自己への絶望の深さも見て取れる。異様な(ヘテロセクシャルでないというよりオープンな言動の点で)性愛と人間性の共存という意味で彼女は阿良々木に近い人物に思える。



殺す殺さないの話も軽口かと思えば、後に明らかになる様に本気なのが戦場ヶ原の何というかいい女と思わせられるところだ。



とても良い

阿良々木ではないと信じたいはこっちの台詞だ。幽霊相手なら性犯罪を行ってもいいのか?
八九寺の正体が判明するところは実に見事で、八九寺の不愛想な態度は思いやりで、戦場ヶ原の攻撃的な態度は奥ゆかしい自己防衛で、羽川の登場は偶然ではなかった。「あなたのことが嫌いです」という台詞への感性は阿良々木の人格を深く印象付けると共に、『化物語』の言葉への向き合い方、心理(トラウマ)への洞察をも象徴しているように思う。
結局「蕩れ」を引用してやや曖昧に返すのは腑抜けてないかと思わないでもないが、まぁそこまで真っすぐではないのが阿良々木の良いところなのかもしれない。



戦場ヶ原と八九寺の緊張関係(八九寺が単に振る舞いを誤解したのか、それとも戦場ヶ原の人格へのより本質的な恐怖と解釈すべきかは不明だが)や阿良々木の八九寺への謎の暴力性(これは最後まで観てもマジで謎)が印象的。



戦場ヶ原の遠回しなアプローチ(自称しているツンデレというより今の感覚ではクーデレと言った風だが、それも彼女の脆い雰囲気にはやや適合しないところがある)、一般社会への負い目という形で「ヘタレ」的なところを見せる阿良々木。後に見せる八九寺への恐ろしいセクハラなど考えるとここでの謙虚さは不可解とも言えるレベルで、面白い彼独自の線引きを匂わせる。
メタ的な話を付け加えれば、こうした会話劇の成立はオタク的なネタを共有するコミュニケーションへの欲求を反映したものと言えるだろう。(評論家筋がよく言うやつ……だが別にコンテンツが滅びる訳ではなく、正にこうしてコンテンツはそれをも内包して展開していく。)



とても良い

ここで行われる儀式はフォーマットとしては神道に基づく神への干渉だが、実際の手法は明らかに催眠法でありフロイトの精神分析的な治療だ。魔法を科学的に解釈して「リアリティ」を持たせる世界設定はよくあるものだが、キャラクターの内面におけるトラウマを精神医学的にリアルなものと解釈する方法論は現在から見ても異様、先鋭的、あるいはグロテスクですらある。西尾維新が「キャラクター」の掘り下げをそういう方向でしか見出せなかったのか、そこを語るほど詳しくはないのだが、何にせよ強烈で興味深い。詳しく言うと戦場ヶ原の症状は解離(特に離人症)に当たるもので、「蟹」とは「解」離に由来する可能性がある。
忍野が「悪いことではない」と言うものの物語としてはトラウマに向き合うのが正しいと提示する訳で、この辺りは猫物語とかのメッセージを考える為に注意しておく必要がある。



戦場ヶ原について尋ねる阿良々木への意味深な表情、バナナについて味ではなく機能での評価と、観返してみると羽川の内面への丁寧な示唆が光る。
冒頭から謎に本気なパンチラ描写とスタイリッシュなカットが続き、軽薄な会話と裏腹な戦場ヶ原の重い事情そして民俗学の彩り、『物語』シリーズ固有の奇妙な取り合わせがこの初回に凝縮されていてよく出来ている。



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