くくると知夢は、自分の目標に前のめりになるあまり異なる見方に寄り添う余裕が無いという点で似た者同士にも思えます。その二人が出会えば諍いも必然ですが、結果としてくくるにこれまで見えていなかったモノを突きつけ、心境に変化をもたらしているようにも見えました。
そしてどうやら風花にも心を揺さぶられる事態が訪れそう。ここまでの物語は奮闘するくくるにそれを支える仲間たちという水族館の”内側”が描かれてきましたが、今話はくくるにせよ風化にせよこの先その”外側”と対峙するような新たな展開の予兆を感じさせますが果たして。
「くだらない事をどこまで信じられるか、なんだから」
希望を失った漂流者たちのその後。皆偽りの希望に縋る事で生きる目的を保っている。無意味な労働、二つ星の諦観漂う言葉、バベルの塔という壮大な空っぽ。まるで現実を一皮剥いた姿を覗き見しているような生々しさを感じました。
そしてその失望の渦の中で、何事も人生の”当事者”になろうとせず、常に”観測者”に留まっていた長良が抗い自分の道を歩もうとしている。彼の変化には驚くばかりですが、自分が自分を諦めてきた事で実は多くの人を巻き込んできたという事実を知った重みが彼に腹を括らせている気がしました。
「みんなわかってるはずだ。結局何処に居たって僕らは抗い続けなきゃいけないって」
らじたにがアリの観測を通して復活した様に、逃避は必ずしも悪いものとは言えません。しかしバベルの塔のように永遠に逃げ込む事も出来ないわけで。希望と逃避は表裏一体、紙一重なのかもしれません。
くくる、夏凛、うみやん、愛梨とたくさんのがまがまへの想いを感じさせる回。闘病に挫けそうな愛梨をはじめ病院の子供たちが移動水族館で命と触れ合う事で生きる事への喜びや意志を取り戻していく姿に「水族館は命を育む所」というテーマが垣間見えたような気がします。
またラストにて、二人が帰り道すがら密室のエレベーターに乗り込んで、到着後開いた出口から光が差し込み、そして開放感溢れる青空の下へ歩き出すと、その道程が飼育員の夢を諦めた事が心の隅で燻っていた夏凜の気持ちの変化を巧みに表現しているようで印象深いシーンでした。
奇跡を望むならば、くくるのように理想を諦めず追い続ける事が不可欠な一方で、如何にそれを実現するかという点では夏凜のような現実的な視点を持てる人も必ず必要になってくるはず。彼女もまたこの先くくるが夢を目指す上で大きな助力となるのではないかと感じました。