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 第11話には、アニメにおける小岩井吉乃の表現のされ方(特に原作と比較して、ラブコメの負けヒロインとしての)が詰まっている。
 川沿いで、〈お嬢様〉と〈従者〉という立場を初めて忘れて話している場面(12:24)において、ふたりが距離を探りながら会話している様子は、原作においては目や口のみ、あるいは顔の半分のみを映すなど、細かいコマの数々によって表現されていた。一方でアニメにおいては、そのような状況であるにもかかわらず、説明的な台詞が差し込まれることなどによって発話の間隔が詰められていた。またその上に、構図が16対9の横長の上に乗せられなければならないという都合があれど、構図は大ぶりなものとなっていた。「ちがうちがうちがう」は原作においては小さなコマの中で小動物のようにコミカルに表現されていたものの、アニメにおいてはバストアップになっており、高校生同士の会話であるようすが表現されていた。また、原作においては、愛姫の「立場を忘れよう」という旨の発言に対し、吉乃が「……わかりません」と俯きながら答えるシーンがあったものの、アニメにおいてはその代わりに「できるんでしょうか、そんなこと」という台詞が挿入されている。すなわち、原作のこのシーンは距離を探りながらのものであったものの、アニメにおいては二人の女子高校生の、対等な会話として描かれている。
 駅(17:00)において、原作では人の間をかき分けながら「すみません」「ちょっと」と発言していた一方で、アニメにおいては、向かって歩いてくる人の間を「ちょっと」「通して」と抜けていくものへと変更されていた。ここから新幹線を降りるまでの間のシーンでは、一期から色々な場面で継続して使用されているフレーズ(第1期第1話0:03、8:53、10:15、15:29、第8話17:05、18:10、第2期第10話12:59などを参照されたい)が変奏されてた。すなわち、この回が物語において大きな山場であるにしても、そのような描かれ方は、一貫した物語の中において把握されるべきだと言ってよい。
 降りる場面(19:06)では、原作では「おります」とだけ言ったのち降りていく吉乃を、隣の席のサラリーマンが横目ののち振り向いて眺めながら「同じ子……だよな……」と心の中で言っている。一方で、アニメでは「降ります」の直後に「通してください」と一言追加されており、代わりに前述のカットは削られている。原作におけるこの部分の演出は、成長が周囲の目線によって示されることで、「リベンジ」への協力者=観察するものから、観察されるものへと、移行するものであった。アニメにおける吉乃は、川沿いのシーンと合わせて、従者ではない存在として描かれることになった。一人の少女として描かれることになったものの、これによって、負けヒロインへと変貌してしまった。
 以上の要素から判断されることとして、アニメにおける吉乃は、「愛姫様」からあらかじめ独り立ちした少女として描かれていると言える。このような描き方によって表現されることとなったものとは、小岩井吉乃の成長ではなく、負けヒロインとしての小岩井吉乃である。



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