ルディの預かり知らぬ事情を多分に含んで始まったシーローン王国編、始まりと同じく解決もルディの知らない事情ばかりで進行するのは面白い構図
今回のルディは何もしていないに等しいのだけど、それだけに群像劇としての色味も感じられ、最終的にアイシャが兄の認識を改めるオチへ綺麗に繋がっているね
ルディはロキシー人形がシーローンに流れ着いていた事も、それがザノバの手に渡った経緯も、ザノバの正体も知らない
というか、そもそも結界の中に囚われているのだから出来ることがない。だから必然的に今回の主役はルディではなくなる
代わりにスポットライトが当たるのはエリスであり、アイシャとなるわけだね
エリスも大活躍をしたわけではない。でも、旅の中で培った経験により、自分が戦うよりもアイシャの面倒を優先できるし、ルディの正体をバラさない配慮も出来る
また、パックス王子を前に動けない兵士たちを安心させる言葉を放ちつつ、ルイジェルドの名誉回復も行っている。それが結果的にルディを助ける道に繋がっているね
誰よりも変化を見せたのはアイシャ。あの様子だと割と最初から飼い主の正体に気付いていたっぽいけど、その内心をルディが知る事はない
アイシャはひっそりと兄を探っていたのだろうね。最後の「旅の仲間に加えて!」という要求やそれに続く言葉も兄を試すものかな
それにルディが変態ではなく兄として答えたからアイシャは兄を信用に値すると捉え直せたのだろうね。
変態の兄から大切な兄に代わった人の物を手に家族との再会目指して旅立ったアイシャ達。ルディやパウロ含めて彼ら家族が全員揃う日が待ち遠しくなる終わりだったね
そんな空気なのに次回は『ターニングポイント』ですか……
以前のターニングポイントでは全てが変わってしまった。次は何が変わってしまうのだろう……
色使い問題、赤は赤でも微妙な違いがある。それを雑に赤と纏めるのは正しくても、その色の美しさを理解しているとは言い難しい。色に対して神経を研ぎ澄ませなければ良さは見えてこない
これは家族や周囲から良さを理解されない龍二の境遇と重なる部分が有ったのかもしれない
冷静で優秀な八虎は正しさを理解している。だから自分を美術の道に引き込んだ龍二も美大に進むのを当然と感じていた
でもそれは八虎の正しさの押しつけだと、桑名の言葉ですぐに思い直せるように優等生の八虎は選ばない選択の大切さも理解している
嫌味なくらいに正しさを理解している
世間の正しさに背を向けているように見える龍二も自分の正しさに苦しめられているね。祖母に進路を話せない苦しみ、部屋が壊されるまで家出が手段に上がらない苦しみ…
龍二の行動全てが間違いではなく彼なりの正しさは有るものの、それは少しでも自分の正しさを優先する者には理解されない正しさなのかもしれない
バーミリオンの赤と同じように鮮烈な美を増す龍二。けれど、それは本人だけでなく触れる者をも傷付ける赤
試験直前の夜遊びなんて正しくない。でも正しいままでは龍二に寄り添えない。正しくない領域に足を踏み入れつつ、譲れない領分は譲らない八虎はどこまで龍二に触れられるのだろうか?
前半にてイルグとして幸せにした少女達や成長させたオルナ、後半にてルーグとして幸せにした領民や栄えた土地を映す事で、父が示す選択肢がより現実味を持って感じられるように成っているね
当然のように暗殺者として生きてきたルーグ。だからこそ改めて暗殺者を選ぶ理由が必要になるわけか
その際にルーグが上げた理由が正義感ではなく、大切な人達が幸せで居られる平和を築くためというミニマムな視点で考えていたのはルーグが今生で手に入れた最も大きな変化であるように思えた。だから、今は切り捨てられる事も問題ないと思えるのか
それよりも幸せを求め、生き続ける道を重視するのか
あと、ここでディアの名を結婚を理由に持ち出すとは思わなかったな。もしかしたら何らかの思惑が有るかもしれないけれど、それでも使用人でも妹でもなくディアとの関係に結婚を求めたのはやはりルーグにとってディアは特別なのかな?
暗殺貴族ルーグを選んでからの初仕事、遂にルーグの本領が発揮される時が来たようで
傷ついたタクトにこれまでに無い感情の揺れを見せた運命に始まり、音楽に関する真意を明かすタクト、そして運命を運命と認めるアンナ
シントラー&地獄との激突という状況の中で全てが善い方へ向かう流れは素晴らしいの一言!
けど、タクトに死亡フラグが立ってない……?
うわ言の中でコゼットの名を呼ぶタクト。この様子からタクトはコゼットの死に向き合いきれていなかった点が見えるね
コゼットの死を整理できず曲を聴かせたい相手を失ったままだから、作曲も上手く行かない。運命をコゼットではない存在だと認めることが出来ない
昔のタクトにあったのは音楽と向き合わない者達への憤りか。皆は音楽を手放したと思うから独りになった
けど、コゼットによって他者と繋がれた。だというのにそのコゼットを失ってしまった。その時から曲を聴かせたい相手は消えてしまった
だから今のタクトに必要なのはコゼットの消失を認め、今は誰に聴かせたいかを見定める事
同様に運命も自身と向き合っているね
タクトの為に楽器を探し、タクト喪失の可能性に動揺した今の運命はタクトへの執着を持っている。後はただ認めるだけ
タクトは運命の名を呼び、運命は自分の心を明確にした。この瞬間に二人は本当のパートナーになれた気がするね
タクトと同じようにコゼットではなく運命と認めたアンナ。それに応えながら姉妹っぽい遣り取りは継続する二人の様子は最高に微笑ましい
タクトは五線譜の先を書き続けると決めたようだけど……。肩の侵食と向かい合う彼は何を考えているのか……
視聴者はシーローン王国にロキシーは居ないと判っているけど、それはルディに明かされていない為に今回の展開にはヤキモキさせられる。結果、ルディは又しても囚われ人になってしまうのだから
そういった意味では真実や正体を隠す事に拠る弊害が幾つも見える回だったかな
ヒトガミはその胡散臭さや正体が見えない事により、幾ら助言しても前世の男から信用されない
また、前世の男も普段は隠れている自分の真の姿を目にすることになるから心穏やかには居られない
ヒトガミは成功の対価に信用を持ち出したけど、ヒトガミは隠れて前世の男は隠されない空間では何をどうしたって信用は生まれない気がしてしまうが…
ルディは名を隠したことによりアイシャと会話できた。けれど、そもそもはアイシャが隠されていた御神体を発見したことによりルディへの印象が最悪に落ちてしまった事が原因
今は正体を隠しているから信用され普通に会話できている。でも、もし真実が明らかになったら……
変態のお兄さんを見る目はどうなってしまうやら(笑)
真実や正体が隠される現象は最終的にルディへと牙を剥くね
ロキシーがもう居ないと知らなかった。案内された場所の怪しさに気づけなかった。相手の力を見誤った
唯一の救いはパックスが魔法は使えても頭は回らないタイプっぽい点か。ヒトガミはルディを導いたのか騙したのか?果たしてどちらだろう?
連邦の理想、それは隅々まで行き渡るが為にこれまでシンエイ達に嫌な思いをさせる事が多かった。それが大決戦を前にして個々人が掲げる信念へと深堀りされ、最終的にシンエイ達を戦場へ力強く送り出す力へなっていく流れには痺れる
戦場へ送られる点は変わらなくても受け取る思いはとても大きいものになった
哀れな子供達をどう処遇するか。この問題に対し前回までは冷たさの方が目立っていた。けれどリヒャルトを始め、積極的に庇うわけではないがせめてもの義理は通そうという大人の対応が見えたね
特にグレーテの戦場へ送り出す事は反対しつつ、反対するが故に最後まで同行すると決める姿勢は尊敬する
でも、抗議が駄々と表現される大人ではないフレデリカは別か。フレデリカに対するシンエイの言葉は大人の論理。それ故に話が逆になっても筋道が立っているように思え、フレデリカの言葉が幼稚に見えてしまう
暗い部屋で紡がれるシンエイの言葉は、反転した明るい部屋でシンエイに突き刺さる構図は痛ましい
「何故じゃ!」と繰り返し問うフレデリカの言葉に論理はない。だからこそシンエイが過去にした後悔とフレデリカが今味わおうとする後悔が重なってしまう
そこにあるのは理想でも信念でもなくフレデリカの親愛。でも、そういった言葉を持ってしても戦場へ行くしか無いと決めつけ、死に惹かれるシンエイを止める事は出来ないのか……
帰路が考慮されない決死の作戦。あれだけ86を嫌っていた筈の他の兵士達がスピアヘッドを送り出すために命をかけた
また、大統領として激励の言葉を送ったエルンストも最後には親として「帰っておいで」と言った。
これらがせめて子供達にとって少しでも帰る理由になれば良いのだけれども
遂に始まった藝大受験。たった一枚のキャンバスに何を描き出すか?無難な絵では通らない。そこでは持てるもの全てをぶつける必要がある
だからこそ、自分がこれまでに身に付けてきた技術を活かす必要があるし、自分に足りない課題点も見えてしまうのだろうね
受験中のトラブルとかメンタル崩壊してしまいそうな事態。でも八虎はそこから突破口を見つけ出したね
受験中の煩悶もトラブルも全て自分が持てるもの。それに負けてしまえば失敗に終わるだけだろうけど、活かせれば実力に加わり自分を助けてくれる
また、佐伯の教えも活かしていたね
全てが上手く回って脳が活性化すれば受験の緊張なんて消えて、むしろ描くことを楽しめる
でも、そんな状態で受験週間を乗り切るなんて出来やしないから息抜きも必要になるのか。次に息をする為に息を吐く
……そんな時間も受験生であれば課題挑戦の時間になってしまうのは酷だけど(笑)
受験の空気に面しても自分の足りない部分が見えてしまう矢口。また、課題では視点の狭さから改めて自分を凡人と感じたようで
八虎は実力や他者からの評価は伸ばしているのに、この点だけは変わらないね
それでも一次試験は通った。更に厳しい二次に向け表情を引き締める八虎が格好良い
商人として求められる仕事を為し、暗殺者としての本業も疎かにしていない。勇者暗殺という大目標に向かってルーグは着々とプランを進めているね
仲間になったばかりのマーハも拷問に参加できるようになっているなど、既に陣容は整いつつ有るように見える
それだけにティアとの関係には驚かされたり
3話で別れたきりかと思いきや、普通に交流は有ったのね。ただ、タルトやマーハのように暗殺業に勧誘したりはしてないようで
ルーグが居なくても支え合う様子を見せるタルトとマーハ、ルーグと仲睦まじいディアの姿が交互に映ることでディアの特別感が際立つね
この特別な関係からどのようにディアも暗殺業に加わることになるのだろう?
前回においても運命の成長を感じ取れる描写が有ったけど、今回は更に顕著な。ただ、運命として成長するということはコゼットから離れていく可能性に繋がるのか
運命をコゼットと結び付けるのが難しくなったアンナの表情があまりに哀しい……
作曲を始めたタクト、ピアノが手元に無く、書きたい旋律も曖昧な状態の作曲は困難
そこでタクトが結びつけることになったのは鍵盤ハーモニカとピアノ、旅の思い出と父との思い出
ただ、そうしても作曲には神経を使うから他の諸々が疎かになる。そこで運命がタクトをサポートするように動いていたのは本当に意外だった
タクトの為に鍵盤ハーモニカを探し出し、タクトに知らせずD2退治。それだけでなく、タクトが何を考えているかも知りたがっている。
これらは運命が成長した背景が有るのだろうけど、アンナもタクトも自分をコゼットと結び付けなくなった事で、自分の存在を不安定に感じるようになった為も有るのだろうかと考えてしまう
コゼットとタクト達の関係を運命が知ることはなく、タクトもそれを言葉にできず。運命にとって自分とタクト達の結び付きが曖昧になっているのかもしれない
そんなタイミングで現れたシントラーは最悪の真実を告げてくれたね。彼の陰謀によって結びつく過去の因縁。この戦いは一つのクライマックスになりそうだ
15話でルディは「人は変わる」と言った。けれど、17話では決して変わらない大切なものも見えたように思う
今回の話も同じように前半でロキシーの成長が語られつつも、お話そのものは変わらないものへと集約される作りになっているね
ロキシーとノコパラの会話からは特にロキシーの変化が伝わってくるね
昔の自分の未熟を落ち着いて振り返られるようになったなら、それは成熟の証。また、それを語る際のロキシーの仕草からは大人びた色香すら見て取れる
ただ、デッドエンドの名を聞いて過剰に怯えたり、帰省を恐れる姿勢からは自己の中心に関わる部分が未熟なままだとも判るね
だから村へ着いても幼い頃の恐怖は克服できておらず、実家も安息の場所と出来ていない
家族の大切さよりも自分の中の恐怖心や疎外感を優先してしまうから、逆に家族を悲しませてしまう
でも悲しませてしまうなら、自分が居なくなれば両親は喜ぶに違いないとの考えが間違っている事になるわけで…
母の涙、そして自分の涙の中に見つけたのは変わらない大切な想いかな
念話が通じるから家族なのではなく、喜びも悲しみも分かち合えるから家族なのかもしれない。それはきっといつまでも変わらない大切さなのだろうね
最後、青い鳥の如く弟子の痕跡を実家で知るのは面白い構図。いつか、ロキシーとルディが再会する光景も見たいものだね
予備校の日々を経て遂に受験日へ
ここまで来たら他者と比べてどうのではなく、単純に自分はどのような武器を持っているかを主題としていたね
八虎に足りない物が指摘されるのも武器を手にする為だし、恋ヶ窪が秘密を打ち明けてくれたのも八虎の武器の結果
大葉が見るのはそれぞれの武器。中でも橋田は判りやすいね。理屈先行だけど、この受験を楽しんでいる。そういうメンタルを持っている
対して八虎がこれまで持っていた武器は真面目さと空気が読める力。それが課題対応の助けとなったけど、合格を手にするには足りない
大葉が八虎を挑発気味に諭すくらい、八虎はあと一歩の所まで来ている
八虎が武器を手にするヒントは最も八虎の自分勝手力が発揮された、絵を描き始めた時期、それを見ていた親友から見つかるという展開には胸が熱くなる
八虎の自分勝手が恋ヶ窪にも自分勝手を呼び覚ました。そして八虎の自分勝手を最も知る恋ヶ窪だから、八虎の武器が最も研ぎ澄まされる方法も知っているのか
禁止事項を知ってもそれを使おうとする仲間に対して、八虎は搦め手無し。彼は「実力以外で~」なんて言っていたけど、搦め手を使わずに挑める時点で立派な実力を備えている証左だと思うけれど。八虎が天性的に持つ武器に気付くのは何時になるのだろうね
泣いても笑っても受験で描いた絵が全てを決める。だというのに大きなバツを描いて去った龍二に何が……
前回の衝撃的再会、それを踏まえての今回は構成から描写、そして帰結へ至るまでの流れ。どれも素晴らしい回だったね
まずパウロ側の苦労を描いてここに至るまで大変な思いをしていたと示し、ギースとの会話ではルディへの劣等感のようなものも垣間見せる事でパウロの鬱屈した感情を上手く表現していたね
これが対等な関係であればパウロの憤りは正当化されたかもしれないが、二人は親子。ノルンにしたように不安にさせない対応が本来は必要
だから二人は故郷を取り戻す同士としてではなく、親子として再会する必要があったのだろうね
ただ、二人は普通の親子らしい遣り取りをして来なかったから和解をどう切り出せばいいか判らない
ここでルディが意外な年の功を見せたね
たった一言謝らなかっただけ途切れてしまった繋がりを知っている。だから謝る大切さを身に沁みて知っている。かといって今のパウロに謝罪を促すのも難しい
再会のやり直しは良い機転。二人は感情の擦れ違いを無しにして親子として再会し直せた。そのシーンは感動的
前回も今回も。ルディもパウロも下世話なトークを試みて失敗している。この親子はこういった下世話な会話をしている時こそ最も親子らしい姿になるだけにその失敗は目立つ
和解後に4人目は?なんて会話をしているのはしょうもないけど、とても二人らしい描写。あのシーンで二人が普段どおりの親子に戻れたのだと感じられたね
その後は一緒に旅するのではなく、目的の為に別々の道を行きますか……
それはルイジェルドが示唆するように今生の別れになるかもしれない。それでも自分がすべきことを優先する姿勢は大人になったと言えるのかもしれないね
離れても顔を見合わせるような終盤のカット。伝言を使わなくても二人が心通わせている点が伝わってくるようだったよ
タルトの時も思ったことだけど、本作は暗殺とは無関係に生きてきた少女がルーグに心酔して仲間になる工程をとても丁寧に描いているね
人身売買という不快な今回のお話。それだけに、その環境からルーグに見いだされたマーハがどれだけ救われたか判るというもの
アンナがゆっくり出来そうと評する若さの少ない街。それは音楽を失った際に活気すら失ってしまったのではないかと思える程
けれど、旅人であるタクト達の訪れによって若さと音楽、そして生の歓びが彼らに齎される。ロードムービーとして文句のない内容だね
運命やタクトは変化・成長し続けている。運命は冗談が言えるように成り、タクトは皆の前で明るく演奏できるようになった。それは歩み続けているからであり、若さを備えているからであり
タクト達が持つそれらは訪れた街にて、人々に振る舞えるものとして描かれている点は印象的
朝雛ケンジの音楽に触れ人生は素晴らしいと感じたジョーも今はただ生き永らえているだけと寂しげ
それをタクトは生きているから自分の音楽を聞けるのだと豪語するね。そして素晴らしい音楽を聞いたジョーはタクトの中に朝雛ケンジの音楽が生きていると実感できたわけだ
アンナを娘と勘違いしたサリーの時間は止まっている。でも、そこに運命が居た事で彼女の時間は少し変化したのかな
何もない道を呆然と見ていた際のサリーからは生の歓びは感じられない。けれど、運命と甘い菓子や活気ある話を分かち合う中で運命の幸せを感じ取れるようになった
最後、ソファーで眠るサリーは安寧を取り戻したかのよう
今回は何よりも、運命がタクトの音楽を好意的に受け止めていた点は意外だったかな
それはコゼットと異なる受け止め方。けれどコゼットと同じようにタクトの音楽に魅せられているのだと判る
これから何でも書ける無地の五線譜。同じようにタクト達の旅も無限の可能性に満ちているのではないかと思えたね
大攻勢、急襲、モルフォにより迫る確実な死を前にして、死をどう受け止めるかという点が描かれているね
誰も彼も死を受け止めきれないから憎しみの対象を必要とする。その中で憎しみより誇り有る死を口にするシンエイ達はやはり異様に映る
敵を憎んでも意味を成さないなら身近な異質を憎むしか無い。かつては哀れな被害者とされていた86が今では化け物と呼ばれる哀しさ
ニーナの手紙、仲間の恨み節、罵声、更には死者の声……。前回は戦いに呑まれ、狂い始めたように見えたシンエイが実はそれらによって追い詰められていた側面も有ったと知れる描写は強烈
それだけに死国へ近づく彼を引き止めたのがレーナの声であったのは本当に良い流れに思えた
スピアヘッドの仲間達の声は誇り有る死を願う死神を肯定しても、生に引き止めてはくれない。かといって既に居ないレーナの言葉はシンエイを生かしてくれないし、戦場から逃げられる訳でもない
だから「さよなら」するしかないか……
憎しみの環境にて他者を恨まず、憐れまれるより恨まれる方がマシだと激怒する86達は異質と言う他ない
でも、幾つもの死に背中を押され生き残ってきた彼らは既に止まれない処まで来ているとも言えるのか
何時になく激しい口調になって理想を語ってみせたシンエイの姿にはハッとさせられる
でも、彼らが自身の異質さを受け止めきれていない部分が描かれているのも良いね
シンエイが声を荒げてしまった姿もそうだし、セオトが何でも「86だから」で済まされる事に寂しさを覚えてしまったのも
死地を抜けた筈が別の死地に赴く羽目になったスピアヘッド。何とかしてレーナと再会する道はないものか……
予備校編に入ってから他人と比較する描写が増えた本作。今回は自分を誰と比較するか、比較の際に相手を決めつけていないかという点が中心に描かれていたね
八虎が天才と考え引け目を感じる世田介と桑名。その二人だって自分と誰かを比べているようで
クリスマスにケーキは一休みかと思えば、それも課題。決めつければ痛い目に遭う
前回は自分の描き方を決めつけてしまった事で評価を下げた八虎、今回は逆に自分を下に見過ぎているかのような描写が目立つね
八虎がそんな風だから、隣に立つ世田介や桑名のスタンスが明白になってくる
世田介は自分には美術しか無いと考えている。だから何でも持っていて、絵への理解力を上げる八虎が羨ましく、劣等感を覚えてしまうのだろうね
それでも八虎は素直に自分の感情を口にして、素直に世田介の言葉に喜ぶのだから余計に堪らない。世田介に未知の感覚を与えている
桑名は姉への劣等感を持っていたようで。そして意識するあまり自分から姉の絵に近づけ、似ているという認識から抜け出せなくなっていたのかな
自分は姉より劣り、落ち込む者を見て心を整えていた。それでは自分を嫌いになる
そんな桑名の特性を見出して絵を評価した八虎の言葉は彼女を慰めたようで
八虎は世田介と桑名に対して嘘のない憧れを口にする。だから他人と比較して自分を決めつけていた二人にとって衝撃を与えるのだろうね
八虎は自分を天才ではない、武器を持っていないと決めつけてるけど、既に自分だけの誰にも無い特性を持っている気がするけどな
彼が受験日までに気付くことは有るのだろうか?
暗殺者に必要な諸々を手に入れていくルーグ
それが必ずしも暗殺技術や力でないのは面白い。父はどちらかと言えば、人間性を重視しているように見える。ルーグもこれに応えるべく暗殺者以外の面で成長を見せていると感じられる描写が多かったね
象徴的だったのはロナハが突っかかってきたシーン。ルーグは相手を捻じ伏せるけど、ルーグの父は強さは重要でないと語る
それを証明するようにルーグのアフターフォローこそ重要。もしもの力として騎士のロナハを勧誘している
そういった見極めが出来る人間性こそ暗殺者として求められるものかな
そんなルーグが次に手に入れるのは商人としての資質ですか
それも必ずしも暗殺技術に繋がるものではないが、人間らしさの育みに繋がる経験
既に異なる人生を歩んでいるルーグが更に体感する別の人生。暗殺者の本分は失わないままに彼の人生は華やかなものになっていくね
ワルキューレ含め登場した新キャラ達はどこかテンプレ感に満ちた言動が見えるけど、それは他者をチェスの駒と捉え枠に収めようとするシントラーが居る事で余計にそう感じるのかな
それにより、逆に枠に収まらないタクトと運命が際立って見えるように思う
シントラーは中ボス的な黒幕、ワルキューレはチョロイン的なツンデレ、地獄は狂キャラ的な底知れ無さをそれぞれ感じる。それらは枠に収められそうな人物像
反面、外壁を破壊して外に出る運命も組織への従属を拒むタクトも枠に収まらないタイプだね
枠に収まらないから、戦場でも敵そのものを狙うのではなく戦場を壊すという戦術が取れる。枠そのものを破壊する
また、自分達を枠に収めようとする動きに反発するのも印象的。運命を兵器扱いしたシントラーに反発したタクト。コゼットが変質した運命を彼がどう捉えているか、明確な描写はこれまで少なかったけどその一端が見れたね
ただ、地獄は狂キャラらしい狂キャラだけど、本当にその枠に収まっているのかと疑問に思う。運命の目を欲しながらすぐに諦め、タクトにはワルキューレと契約すれば良いと真っ当な助言をした。どこか底が知れない……
何はともあれ、規格外に翻弄されるアンナは少し可哀想だ(笑)
ルディが思い付かなかった点、至らない部分がまさかの形で提示される胸の痛い回
これ、視聴者もルディの不作為が気にならないノリが続いていたからこそ、この回で突きつけられるあまりにも当たり前な事実の数々が衝撃的に映るんだよね……
ルディは別に大変な思いをしてこなかったわけではない。1年以上も見知らぬ土地でエリスを守ってきたのだから
でもルディ以上の苦難を味わってきた者達からすれば、それは余裕があるようにしか見えない。また、これはルディへの期待が高かったからこそ、それが反転されてパウロの怒りに繋がった面もあるのだろうね
母よりシルフィを心配してしまったように、転生者であるルディは家族や領民への愛が足りてないのではないかと思えてしまう。
ノルンがルディに逆らって父を庇う姿が描かれ、ルディから目を逸らす捜索団の姿が有るからこそ、ルディが家族や領民を全く心配していなかった事実が浮き彫りになってしまう
打ちのめされ、過去のトラウマも蘇ったルディは不出来な人間である自分に直面したかのよう。更には守ってきたつもりのエリスから慰められてしまう始末
異世界でルディを形作ってきたものが足元から崩れてしまったような逆転の構図。それでもここから本気出す事も出来る筈
ルディがここで終わってしまうのか、ここから始められるのか。これも一つのターニングポイントになるのかな?